夢やぶれて

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 夕飯は海っぺりの国道沿いにあるドライブインで取ることに決めていた。多分、ここから歩いて十五分程だろう。  どうせ取られるものもないので、窓も玄関も閉めずに、そのまま出かけることにした。  家は国道から入った少し高台にあるため、柔らかく吹き上がってくる海風に当たりながら、両脇に草が生い茂った細い道を下っていく。やがて見える海が凪であることを、微かに聞こえてくる間隔の長い波の音が感じさせてくれる。  国道を挟んで海が見えてくる。  ザアー、ザアーと波の音もはっきりとしてきて、磯の香りも強くなる。  凪いだ海は、まだ沈みそうもない太陽に照らされて、幾重にも重なる青に煌めきと深みを与えている。  まだ早いし、海でも見ていくか。  俺はなんとなく引かれるように国道を渡り、砂浜に降りる階段に腰をおろした。  上着のポケットからセブンスターと携帯灰皿を取り出し、一服つける。  同じ海でも、八丈島の海は違うんだろうなあ。ボヤけて見える佐渡島と、すぐそこに見える粟島を眺めながら、まだ見ぬ海に思いを馳せる。東京の本社で面接を受けたので、まだ行ったことがなかった。  ふうっと煙りを吐き出し、何気に目を向けた左側の大きな岩影から、小さな女の子が歩いて来るのが見えた。  肩位までの真っ直ぐな髪を海風にゆるく舞わせながら、こちらに近づいてくる。  うつむきがちに歩くその姿が近づくにつれて、ザッ、ザッ、と小さな足で砂を踏む音が大きくなる。パッと見、まだ小学校前のように思われる。  何かを探して歩いているようだ。  階段下まで来て顔を上げて、初めて俺に気づいたようにビクッと身体を強張らせた。      
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