森の薬師と水の花

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道の脇に畑などが広がっている中を歩いていく 夜だが、まだ日が落ち切っていないのか物の形がわかる程度には見える 前方にあるあかりのせいで後ろは暗く見えるが大丈夫なようだ 近づいていくと申し訳程度に設置されている木の柵のあたりに入口が見えてきた (石の壁ではないんだな。魔物もほとんどいなかった。…ここは村、か。石の壁があるのは街などの大きな場所だけなのかもしれない) 入り口には槍を片手にあくびをしている男が見える 明かりで顔がよく見えるぐらいだ、相手も気がついているらしく俺の方へと歩いてきていた 「村へようこそ。冒険者か?」 「ああ」 「街から来たんだろ?身分証の提示とかはないが…あるのなら一応見せてくれるか?」 「わかった……これでいいか?」 ポーチからギルドカードを取り出してみせる 相手に渡すことはないが俺がかざしているそれを見て確認し終わったのか戻していいと言われた 「なんもない場所だけどゆっくりしてってくれ。宿屋の場所は酒場の二階にある。酒場は…あそこ、今も明かりがついている場所さ」 「ありがとう。…街には石の壁があったがほとんどの村はこんなものなのか?」 「いいや、俺はわかんねえよ。この村から出たことないからな。あんたはこの先の街に行くんだろ?ここは通り道だからなぁ」 「ああ」 軽く挨拶を交わして村の中へと入って明かりのついている酒場の中に 扉の金具が錆びついているのかギギギと嫌な音をたてながら空いた中は割と人がいるのか、俺が入った途端にいくつもの目線が飛んできた カウンターの中にいる男に話しかける 「こんばんは。宿がここで取れると聞いたんだが」 「そうだ。ここの二階が宿だがあんた冒険者か?」 「…ああ」 「なら一個、話があるんだけどよ…それ聞いてくれるんなら宿の値段をただにしてやってもいい」 ひっそりと、ではなく酒場にいる全員に聞こえるように大きな声で俺に取引を持ちかけてくる 周りを見るとじっと、俺の出方を伺う無数の目 カウンターの男に顔を戻すと続きを言うのか口を開いた 「話を聞いてくれるか」 「…聞こう」 「そうだな…何から話したらいいか。あんたは、この先の森に住む薬師は知っているか?」 薬師だと? いや、その前にまず男の言う場所にすら行ったことない 「知らない」 「そうか…。ああ、違う。別に知らなくてもいいんだが…この村から続く道をずっと行った場所に街があるのを知っているか?」 「それは入り口にいた男に聞いた」 「なら話は早い。その近くにある森に薬師が住んでいるんだ。いつもこの村に薬を運んでくれているんだが…ここ数ヶ月、姿を見ていない。できれば様子を見てきてほしい。そして俺たちに伝えてほしい」 目の前の男はカウンターの向こう側から深く、頭を下げた
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