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店を冷やかしたりしながら歩いているうちにギルドに着いた
他の店同様に看板が掲げられていて、木の板に剣と盾、杖が交差している様子が彫られている
いつも…ここは初めてだが、何かしらの音や声が聞こえてもいいはずなのに何も聞こえてこない
ゆっくりと扉を開けると、受付以外に誰一人としていなかった
(まさか、冒険者が誰もいないとはな)
受付に行くまでにざっと内部を見てみたが掲示板に貼られた依頼の数が三枚しかない
そのどれもが常設の依頼
この街のギルドでは普通なのか、今日が異常なのかわからないな
かなりの違和感を覚えつつも受付にいたギルド職員に話しかけた
「すまない」
「ん?…ああ、他の場所から来た冒険者か。何の用?」
「いや……このギルドはこんなに人や依頼が少ないのか?一般の日雇いの依頼はあるようだが」
そう、依頼が少ないのは冒険者用に掲示板に貼られてある依頼だけでもう一つの日雇いの募集依頼はたくさん貼られていた
「そりゃそうだよ。この辺りは魔物がほとんどいないんだ。だからギルドもこんな感じ。あんたどっから来たの?」
「俺は…村を一個通過した所にある……。…あっちだ」
今頃になって気がついた
自分がいた街の名前を知らないことに
「ああ、オルトンね。あそこは近くにエジルの森があるからなぁ。エジルの森は魔素が溜まりやすくて結構頻繁に魔物が出てくるんだ。しかも森周辺にも魔力が滲み出ているから……ってそれが普通なんだけどね」
「魔素があれば魔物も出る…ということか」
「そうそう。ここら辺はかなり魔素が溜まりにくいんだ。お陰で農業とか畜産業とか盛んだけどギルドはこの通り。それだけ平和だってことだからいいんだけどね」
「なるほどな」
「んで?それだけ聞きに来たんじゃないんでしょ?」
「ああ。この街の近くの森に薬師がいると聞いたんだがギルドならもしかしたら知っているかと思って」
ギルド職員は少し考え込むような仕草をすると俺の方を見てにこりと笑った
「一応、理由を聞いておこうかな」
「ここへ来る途中の村の人間に様子を見てきて欲しいと頼まれた。だから見に行くだけだが」
「そ、ならいいや」
座っていた椅子から立ち上がると背もたれにかけていた暗い青のコートを羽織った
そのまま隣にある押し扉から出てくる
なぜだ
「…?」
「え、行かないの?」
「いや…何であんたがこっちに出てきたのかがわからないんだが」
「暇だから、案内でもしようかと思って。あれ、いらなかった?」
確かに暇そうだが…いいのだろうか?
「いいのか?仕事を放り出して」
「いいのいいの。どうせ誰もこないし。何かあったらギルド長が対応してくれるから。さあ行こう!」
俺がいつまでたっても動かないのを見て手を引いて歩き出す
俺はちゃんと歩ける、と思いながら手を振りほどいたが何も感じないようで俺の方を見て笑っていた
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