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屋根の上には小さな煙突が付いている
窓の下には色とりどりの花…ではなく草が生えていた
いかにも薬師の家だな
案内してきたギルド職員がまた前にいくかと思ったが違ったようだ
「帰りは元来た道を変えればちゃんと出れるから。じゃあ俺はいくから」
「ああ、こんな所まで済まない」
「いいっていいって。ギルドは冒険者さんの味方〜ってね。暇つぶしにもなったし。じゃ、なんか用があったらまたギルドに来なよ」
元来た道を危なげなく戻っていることからここに来慣れているのだろう
ギルド職員が見えなくなるまで見送ると家の方へと向き直った
少し控えめに木製の扉をノックをする
中からはーい、と高い声が聞こえてきて…手前に扉が開かれた
出てきたのはまだ十代ぐらいの少女で、薄緑の色をしたワンピースに少し汚れたエプロンをつけている
上の方で団子状に結われた髪にはなんの羽だか知らないが水色の羽が一本挿されていた
「あれー、いつものギルド職員さんじゃない。どちら様です?」
「…サウザンだ。冒険者をしている。ここに薬師がいると聞いてきたんだが合っているだろうか」
「薬師?ああ、それならししょーのことだね!今ちょっと手が離せないんだ。わたしでよければ相手するよ?まだ見習いだけど」
医師の家であっているようだが…今手が離せないのか
目の前の少女が師匠と言っていたからもっと年齢がいっているのだろう
「構わない。聞きたいことがあって来ただけだからな」
「ほんと?じゃあ、中に上がってよ!わたし特製のクッキーご馳走してあげる!」
年相応の笑顔を見せながら家の中に招き入れてくれた
見ず知らずの人物だと思うのだがそうホイホイと入れていいのか?
言わないが
中に入ると広がる草の香り
棚には乾燥した草や木の実が瓶詰めにされた状態で保管されており、本や紙類も丁寧に分けて置かれていた
何より目を引いたのが家の中だというのに蔦植物が生い茂っているということ
家を支える柱や窓枠、吊り下げられたランプにまで草が絡まっている
邪魔じゃないのかかなり気になるな
「そこに座っててー」
「わかった」
言われた通りに椅子に座りながら動く姿を観察した
飲み物はポットに入れておいたのか手早く魔術で温め直している
この世界は生活魔術などがあるから基本的なことは誰でも簡単にできるんだと知ったのはギルドの図書室で
これが意外と役に立って、旅先などで水が浴びれない時には浄化魔術で汚れを取ることができたり水や火を出したりすることができる
人の持つ属性も何も関係なしに使えるこれは神のご加護だと言われているが真相はわからない
考えていると、温め直した茶と一緒に少しどころではなくかなり黒いクッキーだと思われるものが出てきた
(これは…食べられるのか?)
「何回か練習してるんだけど、ししょーは食べてくれないの。だから感想聞かせてほしいなって!」
「……一つ聞くが、これは本当にクッキーか?」
「見たらわかるでしょー!もー、冗談言うのはやめてよね!」
食べなければいけないらしい
意を決して一口食べるとなんとも言えない味が口に広がった
炭…ではない、焦げている味はしない
じゃあ何かと言われたら……土?
本当はしてはいけないのだろうがそっと皿に食いかけのものを戻す
「ど、どうだった?」
「あまり美味しいとは言えない」
感想は真実を伝える方が本人の為だろう
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