森の薬師と水の花

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「う、うーん……ししょーも食べてくれなかったんだよね…何がいけないんだろ」 「それを、自分で食べてみたのか?」 「誰かに食べてもらうんだもん、食べたことないよ!」 それが原因なのではないだろうか 目の前の少女の頭の中には味見という言葉はないようだな 「美味い料理を作る人は味見をするらしい」 「あじみ?ってなに?」 「自分で作ったものを自分で食べて見ることだ。自分が不味いと思う物を他の人に食べさせるか?」 「……むぅ」 恐る恐ると言った様子で俺の目の前の皿に並べられたクッキーを一つ摘んで食べる 「…ヴッ」 やはり不味かったか 「…少し借りるぞ」 席を立ってクッキーを作っていたであろう場所に行くと茶色のクッキー生地の隣に開きっぱなしの本があったので勝手に覗き見る これをお手本に作っていたのだろうな 本には作り方と一緒にわかりやすく絵が書かれているようだが… (これじゃあ何を書いているのか分からない。…黒と白で書いてあるからクッキーの見た目が真っ黒だと思い込んでいるというのもあるかもしれないな。本来なら茶色なんだろうが) 一度でも食べたことがあるのならわかるはずなんだが …料理なんてやったことがない せっかく目の前に材料があるんだ…まあ、いけるだろう 出しっ放しの生地を適当に薄く伸ばして木の板の上に これは中に入れればいいのだろうか かまどの上にある取っ手を開くと火こそないものの熱が伝わってくる 中に入れて閉めると暑さが消えた 脇に大きめの魔石が一個つけられていることから、このかまど自体に魔術がかけられていることがわかる 熱が遮断されているのか……興味深いな 「えっなな何してるの!!わたしのいない間に!」 「断り入れた」 「そういう問題じゃなくて!」 閉めている場所は中が見えるようになっているから色がわかりやすい 黒くならないように見ながらいい感じだと思うタイミングで出した …この木も熱に晒されていたのに熱くない 「うわぁ〜いい香り〜」 「食べてみろ」 「いただきまーす……美味しい!え、わたしと同じように作ったんだよね!?」 「そこにあるやつを勝手に使ったんだが…あの本はカラーではないから」 「からー?」 「……色が付いていないから、焼いた後の色が黒だと思ったんだろう。本来の色はこれだ」 「…茶色い。じゃあわたしが今まで作っていたのは…」 「知らん」 木の板を机に置いてクッキーを食べた 元々の素材はいいのに最後で全てを台無しにしているから炭になる 今だに立ち直らない少女を置いておいて勝手にポットから紅茶を注ぎくつろいでいると、俺が入ってきた扉が開いて人が入ってきた 肩には……鳥が乗っている いつのまに 「おや、やっぱりお客だったねぇ。鳥さん、ありがとうよ」 「ぴろろろう」 ここは自分の場所だというように俺の方に乗り、手に持っていたクッキーを器用に奪い食べ始める お前それ食べていいのか
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