森の薬師と水の花

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入ってきたのは杖を突いている老婆だった 濃い緑のフードを深くかぶった姿だが不思議と暗い感じがしないのは、フードの隙間から覗く顔がとても穏やかだから 「また作ってたのかい?……おや、これは美味しいね」 「それね!本当は茶色だったみたいなの!」 「私も知っていたのだけれどね?」 「ししょー知ってたの!?教えてくれたっていいじゃん!!」 俺の方に一度頭を下げると少女と向かい合って話しはじめた まるで孫と会話しているみたいだな しばらく話終わるのを待ってから老婆に話しかける 「話してもいいだろうか」 「ん、ああいいよ。リナが中に入れたんだろう?何の用でここにいらしたんだい?冒険者の方、かと思うけどねぇ…私は知らないから自己紹介でもしてから話しておくれ」 「…サウザンという。冒険者だ。ここの近くの街に来る途中にある村から、最近村に来る薬師の姿が見えないから様子を見てきてほしいと言われてここに来たんだが…。あなたがその薬師なのか?」 「おやまあ……。なるほどねぇ。冒険者さんの言う薬師は私であっていると思うよ。ただ、村に薬を売りに行っていないのは予想外さね。リナー!ちょっとこっちへおいで」 「はあーい!」 どういうことだろうか ただ単に、村に行くのをやめた…というわけではなさそうだがなぜここで少女を呼ぶのかがわからない まだ見習いではなかったか? 「この四ヶ月ぐらい、私は周辺の村を回れないから薬を売りに村を訪ねておくれと行ったのを忘れたのかい?」 「薬…?あっ」 少女の顔が引き攣るのが見えた (村に薬師が来なかったのはただ忘れていただけか。目の前の老婆は行っていないのに気がつかなかったのか?) 「はぁ、全く。肝心な話は聞かずにそそっかしい。すまないね、こんなことに付き合わせてしまって」 「いや、構わないが…体を悪くしたとかではないのか?」 杖もついているからあまり長距離の移動はできないように感じる この世界の見た目と年齢が一致しているのかはわからないが老いた見た目でまだ若いということはないだろう 逆はあるかもしれないが 始め何かしら病気になったり動けなくなるような何かが起きているものだとばかり思っていた 「全然違うよ」 「なら何故……詮索しすぎか」 「別に構わないよ。リナ、ぼうっとしていないで薬を箱に詰めるんだよ。…そうそれ。明日には村を回ってもらうからしっかり用意しておきなね」 「はっはいぃ〜」 「ああすまないね、話の途中だったよ。この森には水棲が沢山いるのは知っているかい?」 どういうものかは知らないが魔素を主食とすることだけはギルド職員に聞いたので一つ頷く 「…水棲達はね、十年に一度だけ水の花を咲かせるのさ。私はそれを見て、記録をとって…分けてもらう。そのためにずっと水棲達と一緒に付ききりになっていたんだ」 「水の花…」 聞いたことがない 「せっかくだから今から見に行ってみるかい?とても綺麗な水の結晶だよ」
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