森の薬師と水の花

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持ってきた花はそっと、腕をまくった方の手の上に置かれていく 花びらも、茎も葉も全てが透明な色の不思議な花だ 水晶かと言われればそうではないと返せる 茎の管には目に見える気泡が浮いたり沈んだりを繰り返していたから余計に まるで水を閉じ込めたかのようだ 「…それが水の花さ。全て水で出来ている不思議な植物。薬師となって世界を歩いている時に、森で見かけてから私はこの花の虜なのよ。試しに一枚花びらをちぎって力を入れてごらんな」 老婆が前以て準備していたのだろう瓶に一本を除く全ての花を入れてコルクで締める 開いた手で力を入れすぎないように茎を持ち花びらを一枚取った キン、と花びらが取れる音とは言えない金属のような音と共に手に収まる ゆっくりと握りしめていくとぱきりと割れる音が聞こえて手の中から水が垂れてきた 開いた手には砕けた氷のような薄いなにかと水が付いている 「この花はねぇ、力加減ですぐに壊れてしまうんだ。扱いは難しいけれどね、とてもいい薬の材料になる。それに綺麗だから飾っていてもいいわぁ」 「…そうだな」 光の玉はから溢れる光を反射してキラキラと光る花 老婆はこれに魅せられたのか 「さて、戻ろうかね」 家へと戻ってくると扉を開ける前に中から慌ただしく駆け寄ってくる音が聞こえて勢いよく開いた 「ししょー!熱冷ましの薬がないよ!」 「うん?……ああ、そういえばリナが熱を出した時に使ったんだったね。作っておくよ」 「俺はそろそろ戻る。さっさと伝えておきたい」 「もういくのかい?せっかちだねぇ」 今でなければ戻る途中で夜になってしまうだろう それは避けたい (普段から歩いているような道なら別に構わないがここは初めての場所…出来るだけ不安要素は潰しておきたい。迷いたくないしな) 「残念だねぇ。まあ仕方ないさ…少しお待ちな」 老婆は家の中に入るとすぐに戻ってきた 手には先ほどの瓶よりもふた周りほど小さい小瓶と布の袋だった 小さい小瓶には水の花が入っているのが見える 「さっきの花だよ。衝撃吸収と劣化防止の魔術が施された瓶に入れておいたから振っても壊れんだろうね。それと…ここで会ったのも何かの縁だろうからね、これを持っておいき」 受け取った瓶はすぐにポーチに入れる もう一つの袋には試験管のような容器に黄緑色の液体が入っていた 「中級ポーションだよ。…もしかして、初めて見るのかい?」 「……ポーションを、というよりも薬を初めて見た」 今まで特に怪我も病気もなかった 街には薬屋など薬を取り扱っている場所もあっただろうが俺は知らない 試しに蓋を外して掌に一滴垂らして舐めると口の中に下が麻痺しそうになるぐらいの苦味を感じた …不味いな 「……」 「あんた、それは飲めたようなもんじゃないよ!普通は傷にかけて使うものなんだけれどねぇ」 「…だと思った」 「実際は飲んだ方がはやく癒えるんだがね。飲んで使うやつなんて物好きあまりいやしないよ」 効果の高い薬ほど不味いとはなんとなくわかっていた ポーションは知っている 本には傷の治りを早める液体薬と書かれていた 飲んですぐ効果が現れる優れものだがその味が最悪だとも そう書かれたらどんな味がするのか気になるのは仕方がない気がする
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