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(何か…隠せるものは…)
泣きたい気分をぐっとこらえてせめて前だけでも隠そうとする
辺りに散らばる黒い布…俺を包んでいた物を手で掴むがなぜか黒い布は俺が触れた瞬間に体の吸い込まれるように消えてしまった
他のものも同様に吸い込まれて結局、周りにあった黒い布は全てなくなった
手の届く範囲にはもう何もない
どうしようかとあたりをぐるりと見わたして、隠せるものがないかを探す
(…あれは使えるか?)
湖の近くに生えている大きな葉っぱ
何枚も重なって生えているそれはまるでカエデの葉のような形をしたものだった
若干光のあるところにこの格好では行きたく無いが…なんて考えも捨てて立ち上がる
にしても随分、視界が低いような気がするが
ふらつきながら立ち上がったけれど、見えている景色がどうもおかしい
ここの木が大きいということも考えられる
足を止めずに素早く湖へと行こうとするがなかなかうまく足が運べずにゆっくりとした速度になってしまった
葉っぱを取ろうとした時、風がないからなのか鏡のように見える湖の表面に映る自分の姿が目に入った
真っ黒の長い髪にいやに白い肌…血が固まったような赤い瞳
そして
「っ……」
幼い子供のような姿をした自分の姿だった
(ああ…どうりでなるほど。低く見えたのは俺が小さかっただけか……そりゃあ、生まれたてなんだからいきなり大人サイズは怖いな。赤子じゃなかっただけましか)
うんうんと納得する
自分の背が低いから視界も低いのだとわかってスッキリしたからさっさと葉っぱを取るのを再開しないと
そう思って手が届く場所にある葉っぱをもぎ取る
子供だから力が足りなかったらどうしようかと思ったが、どうやらこの体は思った以上に力があるらしい
繭からおはようした時点で人間ではなさそうだしありえる
一枚目を脇に挟みつつもう二、三枚いただこうと手を伸ばしたその瞬間
葉っぱがあった茂みがガサガサと音がしたかと思うと急に男の顔が現れた
(っっ!!)
毛むくじゃらのいかつい顔を見て思わず葉っぱを手に後ずさる
男は呆然とした様子で俺の方を見たまま固まってしまった
俺もどうすればいいのかわからずに手に持っていた葉っぱを向けたまま固まる
この際自分の格好のことは置いておく
男の髪は金髪で目は茶色だ…じゃなくて、顔と一緒に見える首筋と肩は分厚い筋肉を纏っているようだった
体の作りからして俺とは違いすぎる
このまま後ろにダッシュで逃げ去ってもいいかと考えていると、顔だけ出していた男が急に後ろから何かに押されたのか俺の方へと飛んできた
「何ぼさっとしてんだ…よ……」
後ろから現れたのは長い赤毛を一つに束ねた剣士風の女で…俺と男を見比べて
「なぁぁにしてんだよクソリベル!!てめえ人間やめたか!?あぁん!?」
「なっま、待て待て待て、誤解だ!待ってくれ!」
「問答無用!いっぺん死んでろやあああああ!!」
「ぎゃああああああ!!」
…-普通は俺が悲鳴をあげる場所なんじゃないか?
寸劇のような二人のやりとりを見ながら俺は冷静になった頭で考えていた
手に持った葉っぱで前を隠しながら
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