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「悪いね。変なとこ見せた」
「いや、俺の方こそ見苦しいものを見せてしまって」
落ち着いた二人と湖の近くに座り込んでいるのが現在の状態
話しに入る前に服を一枚貸してくればいかと頼んでみたら借りる…というよりもらってしまった
女物なのは負に落ちない……が、男の服は首元が広すぎてずり落ちてしまうため無理だった
どうしようもない
男がさすがに俺のせいでボコボコにされるのは嫌なので途中で止めさせてもらった
割って入ると自分の身が危ないから口だけにしたが
いまは服を一枚借りて着ている状態だがあの時は丸腰
武器を振り回している二人に対峙する勇気は俺にはなかった
女は懐から干し肉のようなものを取り出して齧っている
「にしても…魔族が生まれるたぁ驚いたね」
前髪をガシガシと書きながら肉を咥える様は女というよりは親父にしか見えない
にしても……まぞく?
「まぞくって何だ?」
「魔族は……魔族だ!」
説明とは
「それは俺から説明する…ってて。最近ここら一帯が大きな魔素溜まりができていたんだが、魔素ってわかるか?世界にある力の源みたいなものだが、今日ここに来てみたら何事もなかったかのようになっていた。そこにお前がいた…伝わっかなぁ……?」
要するに、魔素溜まり?が集まって俺になったということだろうか
俺の体はその魔素で出来ていて、黒い布の中で人型になった
それで目が覚めて出てきて今に至ると
(人じゃないと思っていたが…どうりで人の子供よりも動きやすい体だと)
「何となく把握した」
「そうか。なら良かった。俺の説明も捨てたもんじゃないな」
「おかしいよなぁ…脳みそなんか詰まってないような見た目してんのにあたしよりも頭が回るんだぜこいつ。世の不思議だ」
人は見かけによらないというしな
無言で手渡された干し肉を歯で噛みちぎりながら食べる
口の中に広がる肉の味と腐らないようにするための香辛料のきつい味がした
「なあ。お前はこれからどうするんだ?さっきの状況から見るに無一文当て無しなんだろう?」
ふむ…確かにその通りだった
無一文どころか物一つない裸一貫
町に入るにも不審者扱いされてしまう
最悪森でジャングルの王になるしか道はなかったかもしれない
(いや、でもそれも案外いいかもしれないな。ターザンごっこしてみたいぞ)
「おい」
「あ、悪い。森暮らしも悪くないかと」
「はああぁぁああ?目の前にあたしらがいるっていうのに頼る考えは浮かんでこねえのかよ!馬鹿か!?」
怒鳴られてしまった
しかしどうだろう…彼女ら二人と行動を共にするとなると色々と不都合はありはしないだろうか
悲しいことに今の俺はこの世界のことを何も知らない
「なんも考えなくていいんじゃね?どっちにしろ町に着いたら自由行動でいいだろうし。俺たちは一ヶ月したら移動するがそれからのことはそん時考えればいい。なに、先輩からのありがたいお言葉だ」
どうする、逃げ道を作ってくれているのはありがたい
初めてあったのにな…お人好しが過ぎる
だが…とてもありがたかった
「……いや、甘えてしまってもいいだろうか」
「なんかあってもどうともしねえよ。なあリベル」
「ああ。そうだなネリス。……そういやお前に名前はあんのか?」
「ある………サウザンだ」
「そうか。じゃあとりあえずは街まで…よろしくな!」
差し出された手を取って握手を交わした
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