出会い

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そう…あれは忘れもしない5月末のある日、 その日はうだるような湿気と暑さで目眩を起こしそうだった。 それに加えて私は模試の成績が今までにないくらい良くなくて、塾の先生からは怒られ、さらに同じタイミングで当時付き合ってた彼に「好きな子が出来た」とふられてしまう始末だった。 その直後にメンタルがドロドロだった私はあまりにも辛くて現実逃避をしたかった。だからいつもなら通らない道を歩いて帰っていた。 その日の空は「もう何をしても無駄なんじゃないかと思える」くらいの私の心を映しだしたような曇天で、 今にも泣き出しそうな大粒の雨が降り出しそうだった。 ちょうど帰り道も半分くらい来た頃、 ゴロゴロ…!と雷が鳴り、突然バケツをひっくり返したような雨が頭の上に降り注いできた。 たまたま傘を持ってなかった私は、 「もう最悪…」と 思わずその場にうずくまってしまった。 そんなとき何処からともなく流れてきたのは、優しいピアノの旋律だった。 ピアノから流れてきたその旋律は、 雨だれのプレリュードと言う名の楽曲だった。 クラシックが好きな家庭だったこともあって 幼い頃からずっと聴いてた曲 私はずぶ濡れの雨の中、顔を上げ 聴こえてくる旋律に耳を傾けた。 この優しいメロディは一体誰が弾いてるんだろ… 不思議とそのメロディは体の奥底に染み渡って、ドス黒く汚れたコールタールのような私の心を浄化してくれた。 どこから聞こえてくるのか探してみたけれど、最初ははっきりとは分からなかった。 だけどそれからまた、そのメロディが聞きたくて同じようにその道を通った。 そしていつもその道を通ると何処からともなく優しい旋律が流れてきた… 一体ダレガコノキョクヲヒイテイルノダロウ 次第にそのことばかりが気になるようになったけれど、誰が弾いてるのかは結局分からず仕舞いだった。 唯一耳にした言葉といえば 「(たすく)、音楽の先生いらしたわよー」という言葉くらいだった。
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