再会

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再会

「お前、死んでるみたいな言い方ひでぇな」 (たすく)は、キッと緑がかった眼で私の方を真っ直ぐに睨んできた。 「ごめん、ごめん…つい…、あ、朝紀! 後でちゃんと話すからちょっと先に行っててくれる?」と尋ねると、 場を察するように 「うん、じゃあ学食の席先行ってとっとくね!」と先に行ってくれた。 佑の生い立ちについて細かく知られたら、 困る…という想いだったけど、 正直助かった。 「良いのかよ?友達先行かせて」 「大丈夫後で、かい摘んでちゃんと話すから」 私たちは少しだけ離れたベンチに腰掛けた。 風がとても気持ちいい。 「佑、背伸びたね」 ベンチに座っても、私よりも頭一個分以上高い彼の身長に驚く。 「まぁ、アレから10年以上経つしな。 身長もだいぶ伸びたわ。 そういや、おばさん元気かよ?」 「うん、元気だよ。 最近歳のせいか物忘れとかたまにあるみたいだけど、それ以外は元気…」 佑の動きが、一瞬ピタッと止まるが 直ぐにもとの表情を取り戻した。 「にしてもさー、お前電車のプラットホームで全然俺に気づかなかっただろ。 俺は割とすぐ気付いたぜ」 「ゔぅ…だって、昔の印象と全然変わっちゃったんだもん」 「まぁ、分からんでもないけどよー」 佑はしかめっ面で、ポリポリと茶色がかった猫っ毛をかく。 「あれからどうしてたの…?」 ずっと気になってたことを佑にぶつけた。 少しだけ間があって、佑は口をゆっくり開いた。 「まぁ…あれから児相(児童相談所)に一旦引き取られてそこから、一時避難してるうちに今の親が引き取りに来てくれたってわけ。 里親なんだけどさー…両親2人とも子どもいなかったせいか、めちゃくちゃ大事にしてくれんのよ。俺のこと」 「そうなんだ…良かったじゃん」 にこやかに笑う佑を見て、正直ホッと胸を撫で下ろした。 「けどよ…」 佑は急に鋭い尖った目になる。 「やっぱ、母親の匂いというか記憶って消えないよな。恨んでるとはまたちょっと違うんだけど…納得は行ってないというか…。 まぁ、俺はそういうエネルギーを音楽にぶつけてるわけ」 「うん…何となくその気持ちは解るね。」 私も3歳までは、殆ど毎日 実の母親のその交際相手の男性に暴力を振るわれてた。 佑と違ったのは、気の弱い母親がおばさんところに連れてってくれたことだ。 正確にいうと、交際相手の指示で私は叔母の所に捨てられた。 あの日珍しく、オシャレさせてもらって 白いフリルのワンピースを着た私は、 母親に手を繋がれて叔母の家にいった。 叔母の家は山手にある邸宅で、 お洒落なアーチの門を抜けると玄関まで 歩いて5分くらいはかかるだろう 英国式の庭が広がっていた。 色とりどりの花が咲き乱れ、 その庭を抜けるとようやく 白い外観の邸宅が見えた。 旧式のドアチャイムを鳴らすと 「はーい」と奥の方から優しそうな声が聞こえてきた。 扉を開けた先に待っていたのは、優しい目をして、綺麗な紺色のツーピースの服を着た 今の母親、つまり私の叔母だったわけだけれど 実の母親を見た時、とても驚いたような表情をしていたのを今でも覚えている。 ワンレンで腰まで伸ばした厚化粧の母親を、 観ると 「久しぶりね、とりあえず中に入りなさい」 と私達を通してくれた。
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