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それからはあっという間に月日が過ぎた。
あの日以来、佑に校内で会うこともなく、淡々と月日が流れていった。
春の桜が散り、若葉が燃ゆり
そして梅雨が始まろうとする頃、
佑から一通のラインが届いた。
「お袋が倒れた」
ポツポツと降り出した雨粒は、
やがて大粒への雨へと変わり…
辺り一面を水で覆い尽くしてしまった。
窓からは歪んだ景色の残像が流れてる。
佑のお母さんに付けられた病気の名前は、
パーキンソン病
身体の神経が蝕まれ、筋肉や身体を動かす事が難しくなり、徐々に衰退していってしまう病気。
直ぐに死に至ることは少ないが、
徐々に身体を蝕んで動かなくなってしまう。
佑のお母さんは、だんだんと物忘れが増え、
認知症のような症状が出ておかしいと思っていたところだったと言った。
パーキンソン病は認知症に似た症状が出ることもあるそうだ。
佑のおばさんは小刻みに震える症状と、妄想のようなものが混じったため、病院に駆け込みその流れで一時入院しているのだと言った。
電話を受けてすぐ、私は佑のおばさんが入院した病院へと急いだ。
パシャパシャと足元を濡らす雨が、
もう梅雨の時期なのだと知らせていた。
2ヶ月ぶりにあった佑は小さくなっていた。
病室のベッド脇にある簡易の椅子に座りながら俯いていた。
「佑…」
私がなんと声かけをしたら良いか分からなかった。
「悪いな…急に呼び出したみたいになって」
「いいよ、そんなこと。
それよりおばさんは…?」
「今は大丈夫、落ち着いてる…」
ベッドにいるおばさんは、小さな寝息を立て静かに眠っていた。
佑は相変わらず俯いたままで
「…昨日、母さんがさ急に暴れだして…
何でそんなこと言うの?!って泣きながら錯乱状態になってるんだよな。
父さんと2人で、何とか収めようとして大丈夫だいじょうぶって宥めようとするんだけど…
落ち着かなくてさ…」
「…大変だったんだね」
佑はうなだれていて、どんな表情をしているのかが見えない。
「…うん、最後母さん、倒れるみたいに気を失ってさ…慌てて救急車呼んだんだよ。
母さんもだけどさ、父さんも憔悴しきってて
書斎の部屋から出てこないんだ…」
佑の肩が小刻みに揺れる。
「佑…」
思わず、駆け寄り佑の肩に触れる。
「どうしよう…俺このまま、また1人になったら…」
佑は静かに泣いていた。
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