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定時で上がった小柴と咲姫は、東京・上野での飲み会へ向かう。
金曜日だからか、帰宅ラッシュとは逆方面にも関わらず、電車内は混雑している。
会話は自然と開発機動部での仕事の話になっていた。
「小柴くんは最近どう?もう正パイロットだもんね、すごいよね!」
咲姫は目を輝かせながら小柴をのぞき込む。
「いやー、欠員が2人も出たからやむなくだよ・・・まだVR演習しかしてなくて全然実機に乗ってない名ばかりド素人だし・・・」
吊革につかまりながら、力なくため息をつく。
「でもでもっ小柴くんってさ、採用試験でガントレイ乗ってギガース退治して内定っていうはちゃめちゃ伝説の新入生じゃん!
ド素人なわけない、だってド素人がいきなりガントレイに乗れるわけないよ!才能あるんだよ、きっと」
そう、小柴のはちゃめちゃ伝説は入社前から同期の間ではすっかり有名になっており、見ず知らずの同期からも尊敬と好奇の入り交じった目で見られていた。
「才能はないよ・・・才能あったらとっくに乗らせてもらってるだろうし。
咲姫さんの方こそ、エリート1課でバリバリやってるんでしょ?」
「んー・・・私も先輩についてるけど、マーケティング企画部とか開発研究部とか経営統括部とか、他部署との打合せが多いかな。あとはひたすら本部への報告書の作成とか、机の上でやる仕事ばかりで退屈だよー。
私はもっと、現場で身体動かしたりガントレイに乗りたいんだけどなあ」
1課は開発機動部全体を取りまとめる課で、エリートへの足がかりとも言われている部署の一つ。その1課に新入生にしていきなり配属された咲姫は、やはり本部からの期待を一心に背負わされているのだろう。1課も一応パイロットは所属しているものの、現場仕事は少ないらしい。
「へえ・・・すごいね。なんか全然世界が違うなあ」
「小柴くんの方がうらやましいよ〜、私もガントレイ乗れるようがんばらなくっちゃ」
そんな話をして電車に揺られるうちに、上野へと到着した。
結局、同期会は終電まで続いた。
ここ最近の様々な疲労のおかげで、小柴は強烈な眠気に襲われ、いつもは酔わない酒にも少々呑まれていた。
「うっううっ・・・僕は・・・結局、ダメな奴なんだ・・・うっ」
店の外の電柱にうなだれている小柴を、ITソリューション部の同期・名本が気にかける。
「おーい小柴、大丈夫か?二次会行けるかー?」
「ふええ・・・もうやだ・・・もう家で寝りゅ・・・」
べそべそする小柴を放っていくのはなんとなく気が引けた。
「あーこいつ越谷寮だっけ・・・?俺の日暮里寮からは遠いなあ。どうすっか」
「おい名本!二次会行くぞ!」
同じく同期、システム運用部の村田が名本の肩を叩く。
「あー先行っててくれ。俺はとりあえずこいつを駅まで送ってから行くわ」
「ああ例の新入生か。
駅なんて近いじゃん。一人で大丈夫じゃね?いい大人なんだし」
「小柴ー立てるか?寮帰れそうかー?」
名本が小柴の肩を抱き抱えると、
「ふえっ・・・むり・・・歩けないよぉ」
大きくうるんだ瞳で上目遣いする小柴が、名本にすがりついてきた。
名本はそんないたいけな姿に、なぜか胸がざわざわとしてしまった。
「うっ・・・!と、とても一人にはしておけん・・・!」
村田も同じく、小柴に謎の感情を抱いてしまっていた。
「そ、それもそうだな!こんな大都会でこいつを置き去りにするのは危険かも!うん!」
名本は小柴のバッグを抱え、細い肩をしっかりと抱いた。
「よし、安全な場所にいこう!そうだ!俺の部屋で二次会するか!それがいい!」
こうして小柴は寝落ちながら、同期の寮まで連行されていったのだった。
「はっ」
知らない、天井。
「こ、ここは・・・?」
知らない、ベッド。
起き上がり、きょろきょろ見回すと、床には男性2人が転がっていた。
「(あれ、名本、くん・・・?と村田くん、だっけ・・・?
昨日は同期会で飲んでて・・・その後どうしたんだっけ?もうめちゃくちゃ眠くてしんどくて、途中からは覚えてないや・・・)」
部屋の電波時計は、土曜の昼12時を過ぎていた。
「(うわあ、だいぶ寝たんだ・・・今日が休みで良かった・・・あんまり眠れた感じはしないけど・・・)」
重い体を引きずってベッドから降りると、物音で名本も目覚めた。
「おー、小柴・・・起きたか」
「あ、えーと、ごめん名本くん・・・僕昨日のこと覚えてなくて・・・」
「まーそうだろうな。俺ん家来たのも覚えてないよな。お前大声で呼びかけても、爆睡してて全っ然起きなかったし」
「わーっごめん!なんか、色々ご迷惑おかけしたみたいで・・・」
二人の声で村田も目覚めた。大きな欠伸をして、身体の伸びをする。
「ふあ~〜眠ぃ・・・喉渇いた」
「あ、あの、村田くん、だよね?昨日は巻き込んじゃったみたいでごめんね」
「別にいいけどよ、とりあえずなんか飯食いにいこーぜ〜。腹減ったー」
3人は外に出て牛丼屋でご飯を食べ、ぐだぐだと過ごし、また居酒屋で飲む流れになった。
「咲姫ちゃんってエリートなのに親しみやすくて可愛いじゃん?!小柴、今度4人でご飯行こって誘ってくれよ〜頼む〜!あっもちろん小柴も一緒で♡」
顔を赤くした村田が小柴に絡んでくる。
酔っ払い相手は慣れているが、こういうタイプは少々面倒だ。
「おい、小柴が困ってるだろ。村田やめとけ。
小柴。俺、日暮里に住んでるから埼玉からは割と近いし、ちょこちょこご飯とか行こうな」
名本は面倒見が良さそうなタイプだったので、少し安心した。
なんだかんだ小柴が寮に帰宅した頃には夜の23時を回っていた。
「(貴重な休みがあっという間に終わってしまったな・・・楽しかったけど、なんか損した気分でもある・・・しかも疲れ取るどころかさらに疲れた・・・)」
カレンダー休みの名本や村田と違い、小柴はシフト制のため、明日からはまた仕事である。日曜も休みの二人が、少しうらやましくもあった。
ベッドに倒れ込むようにして、小柴は力尽きる。
次に目が覚めたのは、時計が朝の5時半を指した頃だった。
「(お風呂も入らないで寝てしまった・・・)」
寝ぼけ眼で何気なく携帯の画面を見ると、
「えっ」
不在着信が52件も入っていた。
見間違えたのかと思ったが、そんなことはない。
開発機動部と、園部課長と、水沢と、香住から入り乱れるように着信履歴が入っている。約二時間前から集中していた。
「ひええぇっ・・・!」
何があったのか、何となく察知できた。
全身からサーッと血の気が引いていく。
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