1話 就活ごときで死んでたまるかよ

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平日10時の電車内は朝のラッシュ混雑が解消され、人もまばらだ。 「(見なきゃよかったな、選考結果)」 ぼーっと電車の電子広告を見ていると、就活や転職の広告が流れては消え、流れては消えていく。どんな煽情的な宣伝文句も、何ひとつ頭に入ってこない。 一体自分はどこへ向かうんだろうか。 『〇△町付近でギガースの発生確認されたとの情報が入ったため、当列車は緊急停止いたします』 突然、電子広告は『警告』で埋め尽くされ、緊急速報のアラートが流れた。 電車は最寄り駅で止まり、運転再開は未定という無情な文字列が並ぶ。 「(なんだよーあともう少しなのに・・・)」 面接企業の最寄り駅はあと3駅だ。 時間には余裕を持って出たので、徒歩でも間に合いそうである。 電車の遅延理由として、人身事故、線路内人立入、乗客同士のトラブル、急病人救護、ドア・架線の故障、と並んで多いのが、巨大生物・ギガースの発生だ。 「(迷惑だよなー全く、こんな時に限ってだよ)」 ぶつくさ文句を口ごもりながら電車を降り、改札外へ出る。 地下から階段を駆け上がり外に出ると、残暑厳しい日差しが容赦なく照りつけてくる。 ギガース発生情報をアプリで確認しながら、迂回ルートを探す。 「(道路のど真ん中か。タクシーもバスもだめだな)」 ビル群の奥の方から、地響きが聞こえた。 この東京の地下には、地下鉄網を用いた『F.A.IS』システムが張られている。 『F.A.IS』とは地下に眠る謎の巨大生物:ギガースを駆除・撃退する目的で開発された、超広範囲迎撃システムのことである。 たいがいのギガースはこのシステムで攻撃することで駆除することができる。 F.A.IS作動中は地下鉄を利用することができなくなるので、地上でバスか車か、路面電車に乗るしかない。 この辺りでタクシー乗り場はなく、通りかかる気配もないので、仕方なく鞄を抱えて走り出した。 「(ついてないな~今日は。いや・・・今日もか。)」 屋内退避警報が鳴り響く。 『住民の皆様、ここ江戸川区佐内においてギガース警報が発令されました。当地域はF.A.IS作動区域外となり、地上にギガースが出現することが予想されますので、速やかな避難をお願いいたします。また、御高齢の方は、近隣の方々で声を掛け合い指定避難所への避難を・・・』 F.A.ISは東京の地下をほぼ網羅しているが、完全にカバーしているわけではない。稀にF.A.ISの範囲外に、ギガースが地上に出現してしまうことがあるのだ。 警報などまるで聞こえてないかのように、イヤホンで音楽を聴いたり、電話をしたり、数人で談笑したり、ぼーっとしながら歩く人たちの間を縫うように走る。 10分ほど走ると、大きな地響きがかなり近づいてきた。ビルか道路が破壊されているのか瓦礫の音も聞こえてくる。目的地はだいぶ近づいてきたが、行く手の道路はパトカーや消防車で封鎖されていた。 「えー!うそうそ、やばいよ」 面接の時間まであと20分。アプリが示した迂回ルートはかなり遠回りになるため、間に合わない。 あたりを見回し、横の道路を曲がった。 さらに、目的方向へのびる、人一人が通れるくらいの細い裏路地に入った。地元の人しか使わないような、舗装もされていない雑草道だ。すぐ真横にはむきだしの側溝があり、足を滑らせると危険だ。 このあたりはまだ開発が進んでいない地域で、平家や昔ながらの木造の家が立ち並び風情があった。昔このあたりの博物館を見に行くので来たことがあり、細い裏路地が多かったことをおぼろげながら思い出した。 家と家の間の小さなスペースに小さな神社があったり、家の裏の開け放した窓から流れてくるテレビの音が、やけにのどかな気持ちにさせる。 「(はっいかんいかん。先を急がないと)」 しばらく走ると、通りに出る大きな道路が先に見えてきた。現在位置を確認すると、目的地もあと8分程というところだった。とっさの判断のおかげでなんとか間に合いそうだ。 しかしほっとしたのも束の間のこと。 通りに出ると、巨大ロボットが道いっぱいに仁王立ちしていたのだ。 これは、対巨大生物=ギガース用に開発された、人型巨大兵器:ガントレイだ。 「(これは、ガントレイ・・・!)」 あまりの大きさに圧倒されていると、 「ちょっと、君!民間人は立入禁止よ!」 制服を着たロングヘアーの女性がこちらに近づいてくる。胸の腕章は、「東峰工業」のマークがあった。 「あっ・・・!と、すみません。僕、御社への面接へ行く途中でして・・・急いでいたところ、こちらに出てきてしまいました。小柴空也と申します」 「水沢、どうした」 中年の男性もこちらへ来た。 「課長、民間人が迷い込んできてしまったようなので安全な場所へ誘導します。何でも本社にこれから面接に行く途中の就活生とかで」 「ほう、就活生ね」 中年の男性はじろじろと小柴を眺め回す。 「課長、それで浅井さんの到着はまだですか」 「まだ30分はかかるって。本社でウンコしてるみたい」 「こんな時に~!なんなんですかあの人は!!こんな緊急事態にパイロット不在なんてありえません!我々はこのような地上戦のため日々訓練を・・・」 「仕方ない。過敏性腸症候群だから、浅井は」 「じゃあ私が乗ります!」 「ダメだ、お前が乗ると街が一つ破壊される」 「こ、今度は・・・慎重に乗りますので!」 その時、中年男性がぎろっと鋭くを小柴に振り返る。 「そうだ、いいこと考えた。君が乗りなよ、少年」 「えっええ?!!」 「課長、な、なに言ってるんですか?!民間人ですよ!」 水沢と呼ばれた女性は、元々大きい目をさらに大きく見開いた。 「あれだ、就職の適性試験ってことで一つ。だって、どうせこの先の道も封鎖されてるから、ここから本社まで走っても20分以上はかかるよ。どーやっても間に合わんでしょ。ならここで試験やっちゃえばいいじゃない」 目の前で繰り広げられる提案をうまく飲み込めず、小柴は何も言えず立ち尽くす。 「本間さんと香住の到着は待てませんか?!」 「だめだ、立川の現場が長引いててこっちにくるのは1時間以上かかると」 「2課の要請はどうなりました?!」 「一応要請は出しとるけど厚木で訓練中だからちょっと無理かもだって。政府のお偉いさんたちが視察来てるから。ちなみに本社の応援は一応来るけどどちらにしろ素人レベルだから期待しないでね。」 「・・・一応聞いときますけど、警察は?」 「とりあえずうちの出方を見て、状況に応じてピクシー投入する方針。いつものことだけど」 「そうやってお上はお高くとまってるんですよね。高みの見物ってとこですか」 水沢は呆れたように肩を落としたが、すぐに顔を上げると、小柴の肩を力強くつかんだ。 「えーと、それで、就活くん?あの怪物倒したらウチに入社できるって!大丈夫!私がついてるから、どーんと大船に乗ったつもりでやっちゃおう!」
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