4話 来たるべき時、それは今(前編)

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明くる日の17時半。 『エマージェンシー。江戸川区△△、荒川河川敷付近でギガース反応確認。 本体未発現中、警戒レベル2。付近住民避難誘導中。 開発機動部3課は全員緊急出動せよ』 エマージェンシーコールが棟内に鳴り響く。 3課員は一斉に出動準備に駆け出した。 「あのう響子さん、未発現中ってなんですか?」 小柴は格納庫へ走りながら響子へ訊ねる。 「ギガースが地中から出る前、つまり眠っている状態のこと。 警戒レベル2までなら眠っている間に地中で叩くことができる!急げ~!」 この日の関東は大雨警報が出ていた。 ガントレイを載せた航空輸送機は2手に分かれ、東京方面へ移動。 園部課長、丸田、水沢、小柴の4名と、小宮山係長、笹野、香住、姫川の4名の編成である。 輸送機を操縦するのは資格を持つ小宮山と、丸田である。 小柴が輸送機の窓から外をのぞくと、大雨の中でも東京のビル群が煌々と輝くのが前方に見えた。 輸送機は河川敷の公園へと着陸した。 現場の河川敷は、横殴りの風が雨を強く叩きつけてくる。 園部以下4名は雨がふりしきる中、先行していた警察や消防隊が集まるテントに駆け寄る。 「東峰工業開発機動部3課の園部です。状況を教えてもらえますか」 その中には陸上機動隊隊員の姿もあった。 前に進み出た男が、園部に一礼する。 「園部さんお疲れさまです、陸上機動隊第14部隊隊長の西川田です」 「西川田さん、お久しぶりです。陸上機動隊まで出動するとは、これはまた厄介そうですね」 陸上機動隊は、自衛隊内部に創設されたガントレイ専門部隊であり、国内最新機体と兵器を備えている精鋭部隊だ。 この程度の駆除や通常の市街戦であれば、東峰工業などの委託業者に一任するのだが、今回は事情が異なった。 「はい…ここからおよそ400m地点に、敵1体の地中反応を確認しています。現在、陸上機動隊3機が対応に当たっているのですが…」 「…川の水ですね」 西川田は、長方形の卓上に広がる電子マップを拡大し、河川敷の土手を指し示し説明する。 「お察しの通りです。 この大雨で川がかなり増水しており、まもまく氾濫危険水位に達します。 急ぎ地中を掘り進めていたのですが、その間に一気に警戒レベルが3までに上がってしまい、一旦作業を中断して引き揚げてきました。 このままここでガントレイが発現して大暴れすれば、川の土手を破壊しかねず、手出しができない状態なのです」 「なるほど」 園部はうーんと考えたのち、 「水沢、お前はどう思う」 「誘発剤を打って発現させ、一機に叩くべきと考えます」 水沢は即答した。 「俺も同感だ」 西川田が慌てる。 「しかし、それでは川が破壊される恐れが…!」 「このまま川の水位が上昇し続け、完全に我々が手出しできない状態でギガースが発現してからでは手遅れになるかと。 このような災害との隣りあわせの状況は、正直我々にも経験がなく、何が起こるかわかりません。 できるだけコントロールが効く状況下のうちに叩いておきたいのです。 まだ完全に目覚めていない状態で誘発剤を打てば、相手はまだ寝起きで隙ができますから、そこを狙います。 土手は破壊しないように最大限努力しますが、出現位置周辺の土手は補強しておいて最小限の被害に留めるのが得策でしょう」 園部の簡潔な説明に、西川田はじめ警察、消防も言葉を返せずにいた。 「…わかりました。それに従いましょう。我々は全力で動きます。」 西川田は観念したように頷いた。 「全員に通達。決行時刻は1時間後、19時27分!」 陸上機動隊が掘り進めていた土手の斜面は、すでに川の水が浸水し、水が流れ込んでいた。 誘発剤を打ち込むのは姫川機、出てきたところを攻撃するのは小柴機とされた。 さらに陸上機動隊2機がそれを援護。残りの1機は警察・消防と協力して並行して土手の補修に専念していた。 19時03分。既に持ち場についていた小柴は、通信で笹野にこそっと聞く。 「あのう笹野さん、質問なんですけど」 「どうしたんだ?」 「いまわざわざ誘発剤を使うより、寝ているところを地中で倒す方が安全なんじゃないんですか?」 「ギガースの段階は4段階に分かれているのは知っているよな。 警戒レベル1…完全に寝ている状態。 警戒レベル2…眠りが浅くなっている状態。 警報レベル3…目覚めが近づいている状態。 警報レベル4…完全に覚醒した状態。 警戒レベルでは地中でも駆除可能だが、警報レベルでギガースに下手に手を出すと怒って暴れ出すから、誘発剤を打って寝ぼけさせた方が退治しやすいんだよ」 「確かに、人間も寝てるところを叩き起こされると怒りますよね〜」 コックピット越しの外界はすっかり暗闇に包まれ、雨足はますます強くなり、轟音を立てながら間近を流れる川は恐怖を感じるほどだった。 姫川は誘発剤を打ち込むシミュレーションを繰り返していた。 電磁ロッドは最大9m伸長可能であり、その先端に誘発剤を装着し、地面に打ち込むという作戦である。 19時15分。 「熱源反応拡大!予想時間よりも早く覚醒が進んでいます!」 現場に、一気に緊張が走る。 外で雨に打たれる中、園部は西川田に合図し、西川田は頷く。 「前倒しして姫川機は誘発剤打ち込み開始! 小柴機は持ち場ついてるな。 敵が顔出したところを一気に叩け! 後ろから頼もしい陸上機動隊さんも援護するから慌てることはないからな」 園部がすかさず指示を下す。 「了解!」 「り…了解」 いよいよ始まる、と小柴は唾を飲み込む。 姫川は算出されたポイント地点に電磁ロッドを刺した。 浸水していたが、水深は深くないので、すぐ地中に刺さった。 「地中3m地点に到達。あと30秒で敵本体まで到達するぞ。 姫川、落ち着いてそのまま行け」 輸送機内はコントロール室も兼ねており、3課員はそれぞれ持ち場につき、香住は姫川機のデバイス画面を見守る。 「ギガースまで到達!誘発剤打ち込みます!」 姫川はシミュレーション通りに進めた。 「敵レベル4、地中より移動開始。外に出ます。あと5分ほどで地上到達」 「たった今、電磁ロッド、アクセルガンの使用許可が出た。 今回は時間がない。一気に叩くぞ!」 園部の檄を合図とし、小柴は電磁ロッドを構えた。
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