4話 来たるべき時、それは今(前編)

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「小柴!今回のガントレイのスペック聞きたい??聞きたいよね?!そうだよね!!」 「え?あ、はい…」 水沢が通信画面越しに、目をキラキラ輝かせながら勝手に解説を始めた。 「今回の搭乗ガントレイは『ST陸戦型スーパーノヴァⅡ』でーす! ノヴァシリーズといえば、いわゆるスーパーロボット型のウチの主力機だけど、この陸戦型は市街戦での近接・特攻を重視したタイプよ! 回避というよりは、相手に真正面からパワーでぶつかっていくのが最大の特長! 火力は街を破壊しないように抑えられているけど、両肩にある中距離リバルバーキャノンは通常のギガースにクリーンヒットすれば一発でダウンさせられるし、取り外し使用すれば狙撃もできるし、何よりビジュアルが戦車っぽいごつさがあってかっこよくない~!?ねえ!」 「は、はあ…」 「スマッシュパンチにアッパーグライド、エンビキック等許可不要の格闘技が盛り込まれているから殴り放題蹴り放題、思う存分暴れられるぞ!」 通信に割り込んできた香住が呆れ声でぼやく。 「最大のメリットにしてデメリットの近接格闘は、確実性の高い攻撃力の反面、被ダメージも大きいから、修繕コストがバカ高くて今じゃほぼお蔵入りのシリーズだけどな…」 「お蔵入りじゃない!需給のバランスを見直すと言っているだけ! この子たちには当たって砕いていくスーパーロボット型の崇高な使命があるの!」 「おーい小柴、キリのいいところで通信切れよー」 香住はブツッと一方的に切ってしまった。 「こら香住ー!言いたいことだけ言って勝手に切るなー!私の話を聞けー!」 水沢も、言いたいことだけ語って切れてしまった。 小柴はガントレイについては勉強中の身であり、加えて水沢が早口すぎたのでなにを言っているのかあまり理解出来なかったが、少し緊張はほぐすことができた。 小柴は機体越しに隣合う姫川に思わず声をかけようとしたが、 「(いや…やめとこう。僕なんかが話しかけたら、きっと迷惑だろうし…)」 先日の一件以来、小柴は姫川とまともに顔を合わせて会話をしていなかったので、やはり気まずいものがあった。 一方姫川は、じっとその時を待っていた。 「到達まであと1分」 そうこうしているうちに、敵は目下まで迫ってきた。 姫川もアクセルガンを構え、小柴と肩を並べて敵を待つ。 「小柴君、しっかり俺に続けよ!敵は待ったなしだ。もたもたするな」 「は、はい!」 小柴は久しぶりに姫川の声を聞いた気がして、少し安心した。 やはり姫川は心強い存在だ。 「カウント始めます」 感情の入らない香住の声に、現場は再び緊張が走る。 「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…」 「FIRE!!」 水沢のかけ声と同時に、ギガースが地中から勢いよく飛び出してくる。 敵は巨大な蛇に似た見た目をしていた。 「ひ、ひぃ~!長いっ」 あまりの大きさに、小柴は思わず怯んで土手の上方へ後ずさりする。 姫川はすでに敵の出現と同時にアクセルガンを連射していた。 「姫川、当たってるぞ!攻撃の手を緩めるな!」 香住の指示に従い、姫川が前進した時だった。 「?!地盤が…!」 川の増水で地盤がゆるみ、足場が崩壊し始めていた。 姫川機は川に半分足を突っこみ、激しい流れに持って行かれそうになってしまった。 「まずい!」 その隙に、ギガースが姫川機に標的を定め攻撃を仕掛ける。 「小柴!アクセルガンで姫川機を援護射撃!姫川には絶対当てちゃダメだからね!」 すかさず水沢が小柴に指示を飛ばす。 しかし、 「あ、あれ…?なんだ??動かない…」 小柴はアクセルガンを構えようとするが、ガントレイはなぜか操作をしても、沈黙したままだった。 「どうしたの小柴?!」 「な、なんか変なんですけど…」 小柴が機器を手当たり次第動かそうとしているところに、陸上機動隊より通信が入る。 「こちら陸上機動隊仁村です!援護射撃を試みているのですが、先程からガントレイの指示系統に不具合が生じているのか、マニュアル操作が効かなくなっています!申し訳ありません…!」 「なんですって?!」 小柴機のガントレイの機器系統には『Unknown』と表示され、異常が起きていることを示していた。 水沢が足回りをオートモードにシフトさせようと試みるが、それすら撥ねのけられる。 「まさかこれは…!? 」 香住より通信が入る。 「響子さん、姫川機も全く同じ状況です。 おそらく、ジャミングされているかと」 「やっぱり!一体どこから?!」 「わかりません。俺はとりあえずジャミングの相殺を試みます。 笹野さん、姫川機のバックアップお願いします」 淡々と話す香住は、すさまじい早さで解析をはじめていた。 一方、小柴は思うように動かない機内で焦りを募らせていた。 「くそっ!どうすればいいんだ…!!」 目の前の姫川機はギガースに身体を絡みつかれ、身動きがとれずにいた。 「姫川先輩っ!大丈夫ですか!」 小柴の呼び掛けに、 「ああ…なんとか、まだ大丈夫だが… ガントレイがなぜか動かない…」 姫川も応答するが、川に足を取られていることもありギリギリの状態だ。 「こちら水沢!二人とも、落ち着いて聞いて! 現在、ジャミングをされていて機器障害が発生している可能性がある! 香住が相殺を試みているが、おそらく時間がかかる…! 最悪の場合は機体を捨てて脱出しろ!」 「そんな…!」 ますます強くなる締め付けに、姫川の身の危険が迫る。 「頼む!!動いてくれ!!姫川先輩を助けなきゃいけないんだ!!お願いだ…!!」 小柴はこれまで姫川と一緒に特訓した日々や、姫川が教えてくれたことを思い起こしていた。 「いま僕がやらなければいけないこと…それは、姫川先輩を助けることなんだ! 今度は、僕が助けるんだ!」 その時、 「!小柴機、操作系統正常値に向かってます!」 笹野が叫ぶ。 「やった!!小柴ぁ!!武器は使えないが拳がある!!拳で行けっっ!!」 水沢が叫ぶ。 「動いたぁーーーー!!!」 小柴は叫びながら、 「スマッシュパンチ!!!」 ギガースの頭を思い切り殴った。 その怯んだ隙にギガースから姫川機を引き剥がし、土手の上手へと引きずり上がった。 「全機一時撤退!!体制を立て直す!!」 西川田と園部は撤退を決断した。 かろうじで動く小柴機がギガースを牽制しつつ、陸上機動隊の2機も回収。 今作戦は事実上失敗に終わった。
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