4話 来たるべき時、それは今(後編)

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東峰工業3課と陸上機動隊合同作戦会議は午後10時半から始まり、関係者がずらりと勢揃いした会議室はおよそ40人ほどで埋められた。 「今回、江戸川区荒川河川敷付近で発生したギガースは現在、発生場所にて徐々にその全容を現している。全長は推定20m、地上への完全出現予想時刻は午前2時41分。 奴が完全に姿を現して自在に動けるようになれば、住宅街にまで被害が及ぶだろう。その前になんとしても食い止めねばならない。 にわかには信じがたいが、奴はガントレイの機器を狂わす強力なジャミング攻撃を行う。 そこでまずジャミングをクリアする。 解析の時間が限られているため、クリアされる時間は約6分。 その間に、いかに敵を確実に仕留めるかだが、現場は川が近く、またこの大雨で増水しており、足場がかなり不安定だ」 その時、水沢が天高く手を挙げた。 「すみません。それに関しては私からご提案があるのですが、よろしいでしょうか」 「…以上が、江戸川区発生ギガース掃討作戦の概要である。 決行は2時間後の午前2時!移動開始は1時間後!各自それまで万全に備えるように」 会議が終わったのは夜中の12時過ぎだった。 続々と席を立って退出するなか、小柴は神妙な面持ちでうつむいたままだった。 そこへ隣の水沢が小柴の肩に手をかける。 「小柴、今回の作戦はあなたにかかっていると言っても過言ではない。 私が提案したプラン通りなら、確実にあのギガースは倒せる。 あんたならやれる!」 「…はい…」 浮かない顔の小柴が一人会議室を出ると、早水舞が廊下で待っていた。 「あれ、どうしたの?舞ちゃん…」 「私もこの作戦に招集されているから。さっきも会議の中にいたけど」 「えっそうだったの?!なんで参加するの?!」 「私が奴のジャミングをクリアする。だからくーやは安心して」 早水は無表情でピースをする。 「そうなんだ!舞ちゃんがいてくれるなら、心強いや…! なんか少し元気が出てきたよ」 ずいっと小柴の前に出て、早水は小柴の瞳をじっと見つめる。 「くーや。くーやはね、私が守るよ。そのお守り、大事に持っててね」 小柴はポケットに入れていた早水のお守りを取り出した。 「わかった。舞ちゃんが側にいてくれるみたいで心強いよ。ありがとう!」 少し離れたところで、水沢と香住がその様子を見ていた。 「ねえ…」 「はい、怪しいですね」 小柴が小走りで二人に駆け寄ると、香住に首根っこを捕まれた。 「おいお前、さっきのはなんだ。彼女か?」 「え?違いますよー。舞ちゃんは、あっ早水舞って言うんですけど、彼女は僕の幼なじみで、陸上機動隊に勤めているんです」 「それにしては距離が近かったけど~?」 水沢は疑いの目を強める。 「舞ちゃんは、小さい頃から僕の側にいて、僕を励ましてくれたんです。 同い年だけど僕なんかよりずっと大人っぽくて、弟みたいに扱われてたんですよ。 昔から天才電脳少女って呼ばれるくらい凄腕のプログラマーで、その腕を買われて陸上機動隊にスカウトされたんですよ。すごいですよね~」 「弟ねえ…」 「今回もジャミングクリアに協力してくれるみたいなので、香住さん、仲良くしてあげてください!」 「無理だね」 即答する香住に、小柴はぎょっとした。 「なっ…冷たい人だなあ…」 「あの女は信用ならない」 「その根拠、どこから来てるんですか?」 「俺の勘はよく当たるんだ、特に女に関してはな」 水沢はじとっとした目つきで、小柴を見ていた。 出発時刻よりも早かったが、修理が完了し輸送機に搭載されたガントレイのコックピット内に、小柴は既に待機していた。 膝の上に置いたヘルメットが重たく感じる。 水沢と打合せした手順を何度もイメージして思い描いていたが、どうしても不安な気持ちがはやり、胸が潰れそうだった。 「(僕なんかにできるのか…もし失敗したら…いや最悪の事態にならなければ何もしなくていいわけだし…いやいや今からそんな逃げ腰でどうする…!)」 その時、姫川からの通信が入った。 「小柴君、大丈夫か。先程は君に助けられたな、ありがとう」 「姫川さん…!」 姫川は穏やかな眼差しで、こちらをまっすぐ見ていた。 「小柴君があの時動かなかったら、俺は今頃やられていたことだろう。 あの時小柴君は、自分のやるべきことをしっかり果たしたな」 姫川の爽やかな笑顔を久しぶりに見て、小柴はなんだか涙ぐみそうになってしまった。 「この前は、酷いことを言ってしまってごめんな。 小柴君に奮い立ってほしくて、つい突き放すような言い方をしてしまった。 …小柴君、君は新入生である前に、パイロットなんだ。 ガントレイに乗れば誰もがギガースを倒すパイロットだ。年次は関係ない。 コックピットに入ったら目の前の敵を倒すことに集中するんだ! 今は間違ってもいい。失敗を恐れるな!前に進まないと、成長できないんだから」 小柴はこらえきれず、涙がこぼれた。 「君は失敗や周りの目を気にしすぎて、自分を過小評価しているんだ。 あまりに自分を小さく見積もってしまうと、本当の実力も出すことができずに萎縮して、結果自滅してしまう。 君と一緒に数週間仕事をしていて、それがとても引っかかった。 奢りすぎてもいけないが、かといって自分を矮小に考えすぎてしまってはいけないんだよ。 大丈夫!君には才能がある!同期の誰よりもがんばっているよ! 俺が保証する。だから俺を信じて、自分をもっと信じてほしい。 俺をはじめ3課の人たちは、君が思っている以上に君に期待しているよ。 そして、いつも自分が今何をやるべきか、何を求められているのか、考え続けてほしい。 …これがおそらく、俺と君の最後の出撃になるだろうな。一緒にがんばろうな!」 「はっはいぃ…はぃっ…!」 涙と鼻水まみれのヘルメットをぎゅっと抱きしめながら、小柴は言葉がうまく出せなかった。 姫川の3課最後の日まで、あと約4日。
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