4話 来たるべき時、それは今(前編)

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4話 来たるべき時、それは今(前編)

「いや~色々と迷惑かけてしまってすまんなあ」 水沢・笹野・小柴の三人は仕事の合間を縫って、本間の病室に見舞いに来ていた。病院は越谷ベースからは車で15分ほどの駅前にある。 「とんでもないです。本間さんはこちらのことは何も気にせず、ゆっくり休んで下さいね。前来たときよりも顔色良くて安心しましたよ」 水沢が見舞いの菓子折を渡す。 「あーお気遣いいただいて、すまん。 しかしもう1ヶ月もここにいるからな、退屈で死にそうだ」 小柴にとっては、本間ときちんと対面するのは始めてだった。 それもそれのはず、着任日に浅井の事件があったため本間とはまともに話もできていなかった。 姫川に代わり、いずれはパイロットとして本間と現場で一緒に働くことになるのだ。 本間は体格・身長ともに大きく、がっしりとしている。おまけに眼鏡で隠しきれない結構な強面だ。そんな本間にとって病院のベッドは少し窮屈そうだった。 「最近どうだ?!水沢。新入生の方は」 じとっとした目つきで横の小柴を見る。 「んー・・・まだまだこれからですね。入社早々遅刻かますし、私に口ごたえするし。 可愛い見た目に反して結構じゃじゃ馬なんですよ」 笹野がくくっ、と笑いをこぼす。 「ほう!こいつは教育しがいがありそうじゃないか!水沢の腕の見せ所だな」 強面の本間は豪快に笑う。 「せ、先輩~!その節は申し訳なかったですって・・・」 水沢はこの前の小柴反抗事件を根に持っているようだ。 「笹野はどうだ?みんなのカバーが大変そうだな」 「ええ・・・でもだいぶ今は落ち着いてきたので、ひとまずは」 「そうかそうか。笹野にも世話かけるな。 それにしてもだ、香住はどうした香住の奴は?! バディなのに一度も見舞いに来ないし、俺、本当に先輩だと思われてないんだよなぁ・・・」 本間は肩をすくめる。 「香住は相変わらずですよ。本間さんは戻ってくると信じているから、心配してないんだと思います」 「おお・・・笹野は良い後輩だなぁ」 「ま、誰に対してもそうなんですよアイツは。何事にも冷めた薄情な奴ですよね。今日も誘ったけど全然来ないし。 まったく、人の情というものがないのか。鬼畜だ鬼畜」 もしかして、全く勘づいてないのか・・・と、好き勝手言う水沢に、小柴はほんの少しだけ香住に同情した。 「そして、君が小柴だな。着任初日以来か。しかし話もろくにできてなかったなぁ。 新入生なのに、色々気苦労かけて申し訳ない」 本間が頭を軽く下げる。 「いっいえ!本間さんも、良くなっているみたいで、安心しました」 「あの時、小柴が俺のことを助けてくれたんだってな。礼を言うのが遅くなってしまった、とても感謝しているよ」 「いえいえ、そんなたいそれたことしてませんから・・・」 しばしの談笑後、話は浅井の去就の話題になっていた。 「・・・浅井さんは、やはり辞めるのか?」 それまでにこやかだった本間が、少し険しい顔になった。 「・・・はい。5月いっぱいだそうです。」 笹野をはじめ、一同の顔が曇る。 「・・・そうか・・・もう、浅井さんには会えそうもないな・・・」 本間の退院は6月を予定しているので、その頃には浅井はもういない。 「・・・まぁ、本人が決めたことだからな、俺たちがどうこう言える立場でもないし、仕方がないことだよな。 残された俺たちでなんとかするしかないってことか。5月いっぱいは姫川がいてくれるしひとまずは大丈夫だな」 「あ、そうだ。姫川からご伝言預かってます。またシンガポール行く前にお見舞い行きます。ご自愛ください、って言ってました」 「姫川も相変わらず律儀な男だ」 本間は改めて小柴に向き直る。 「小柴。君と一緒に仕事ができるのを楽しみにしているよ」 握手を求めてきた本間の手はとても大きくごつごつとしており、目立たなくなってはいたが、手の平にタコができていた。 「(ん?これ・・・)」
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