4話 来たるべき時、それは今(後編)

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4話 来たるべき時、それは今(後編)

江戸川区から一時撤退した3課一行は、陸上機動隊第14部隊と共に東京某所にある陸上機動隊総合基地・通称『ネメシス・アイガン』へ移動していた。 作戦は失敗したものの、負傷者ゼロだったのは不幸中の幸いだった。 現時点で被害が拡大していないのも救いだった。 今回の蛇状ギガースは全長が巨大で、外に完全に出現するには数時間かかるためである。 その合間を利用して万全の体制を整えるのだ。 此処、ネメシス・アイガンは陸上機動隊の主要拠点でもあり、首都防衛システム『F.A.IS』の統括本部でもある。 「ここがネメシス・アイガン…難攻不落の絶対要塞って感じですね」 小柴は上空の輸送機の窓から、巨大要塞:ネメシス・アイガンを見下ろす。 周りを高い塀に囲まれ、不夜城都市の要塞といった重厚な雰囲気だ。 テレビでは何度も見たことがあったが、実際にこうして目にするのは小柴にとっては始めてだった。 ネメシス・アイガンはギガース防衛機能の重要中枢として、世間一般にもよく知られている。 「そう!ネメシス・アイガンといえば首都防衛の要、F.A.ISを擁する国防拠点! もちろん国内最新鋭のガントレイも揃いまくっちゃってるのよ~! 滅多に入れないんだからこの機会に拝んでおかなきゃね! 修理ついでに最新パーツでパワーアップもしてくれないかなー?!」 水沢も身を乗り出す勢いで窓に貼りつく。 「さっきまでドンパチやってたのに、よくもまあ元気だね君たちは…」 園部はげんなりした様子で、助手席に座っていた。 損傷したガントレイ修理のため、3課輸送機2機は、陸上機動隊整備基地に収容された。 3課の面々はガントレイ収容作業を手伝いつつ、陸上機動隊のガントレイをしげしげと見学していた。 中でも、シルバーの機体に朱いエンブレムの入ったガントレイがずらりと並ぶのが目を引いた。 「あれは!陸上機動隊専用機『サーベルブライトVG』!かっこいい~! そしてそれを駆るのは、陸上機動隊の中でも精鋭中の精鋭部隊、レッドウルフ! ということは、矢霧先輩いるかな~?」 水沢は抑えきれない興奮で声が大きくなっている。 「うーん、さすがに今はいないんじゃないか」 その様子に、笹野が苦笑をもらす。 「矢霧先輩って、3課伝説のエースの方ですよね?!自分もお会いしてみたいです!」 姫川も身を乗り出してくる。 「そうよそうよ!矢霧先輩といえば3課きって、いえ!東峰工業随一と言っても過言ではない伝説のエースパイロット! その腕を買われ陸上機動隊出向、さらに陸上機動隊の中でも選ばれし者しか入隊を許されないガントレイ精鋭部隊『レッドウルフ』に所属するという輝かしい大出世を果たしたお方! 矢霧先輩は私の永遠の憧れ…美しくて強くて気高い、パーフェクトな女性…嗚呼、あんな方この世に二人といないわあ…」 水沢にしては珍しく、ガントレイを語る時と同じ熱量で人間のことを話している。 「こらお前ら!子供の社会見学じゃないんだから、みっともなくはしゃぐな」 小宮山ははあ、と大げさなため息をついてみせるが、3課員にはあまり聞こえていないようだった。 丸田は一人、それを見守るようにして少し離れて立っている。 園部と香住は陸上機動隊の品揃えに、感心と嘆き混じりの声をもらす。 「見事に神山製ですね」 「いや~壮観な眺めだ。ウチの会社のは一つも無い」 「よく見て下さい、端っこにありますよ。ほら」 「どれどれ」 小柴は3課の輪に入りたかったが、姫川に近づくのはまだ躊躇われたので、離れて一人うろうろ歩いていると、 「よっ」 後ろから突然、声をかけられた。 振り返ると、眠たそうな目をしている、見知った女性が立っていた。 「は…えっ?!ま、舞ちゃん!舞ちゃんだ!」 小柴はその女性の姿に驚いて、思わず声をあげた。 「ども」 早水舞は女性というには、少し幼い容姿をしている。 「舞ちゃん、久しぶり~!なんでここにいるの?」 「仕事だよ。いまF.A.IS統制管理センターにいるのだよ」 「あっそうだ、舞ちゃんは陸上機動隊に就職したんだったよね。 すごいな〜!」 F.A.IS統制管理センターは陸上機動隊、つまり国家に管理されている。 その開発には民間企業も複数関わっているため、民間からの優秀な出向者も多く含まれ、各分野の多彩なスペシャリストが揃う天才の巣窟となっている。 「くーや、色々大変そうだね。はいこれ」 早水舞は、小柴に何かを手渡した。 「これは…お守り??」 「そうだ。次会った時に渡そうと思ってた。危険な仕事なんだろ」 「わ〜舞ちゃん、ありがとう!舞ちゃんはいつも優しいね〜。 今度またゆっくりご飯いこう!」 「うむうむ」 香住はその様子を離れた所からじっと見ていたが、早水舞がその視線に気づいた。 一見眠たそうな目の先には、鋭い眼光があった。 屋外の喫煙所でタバコを吸う香住は、珍しく物思いに耽っていた。 そこへ小柴が駆け寄る。 「香住先輩!先程の戦闘では、ありがとうございました」 「…なにが?」 「なにがって、さっきギガースからジャミングされていた時に、香住先輩が助けてくださったんですよね?おかげで命拾いしました~」 「…いや、俺じゃねえよ」 「え?」 「なんでもない」 香住はタバコをもみ消し、すたすたと歩いていってしまった。
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