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 え、え、えっ。泣き出す前の、葵の声だ。 「起きた」 「うん、」 「泣くよ」 「……うん」  葵の声を聞いても離れ難くて、いつまでも先生を抱きしめたまま、くっついていた。案の定、誰も来てくれないと察した葵が、「ヒーっ」と甲高い泣き声を上げ始める。仕方なく、僕は先生から身体を離す。名残惜しくて、もう一度、くちびるを軽く触れるだけのキスをした。 「ミルク作ってくる」 「うん」  僕はその場を離れた。先生は葵を見つめていた。  ほ乳瓶に粉ミルクを入れながら、さっきまでのことを思い出す。自分の思いがけない大胆さに驚いていた。  これから先生とどうやって向き合えばいいのか。でも、仕掛けたのは自分なのだから、この責任はすべて僕自身が取らなければならないのだ。  今まで通り、何事もなかったように接しよう。そう心に固く誓い、僕は大きく息を吐いた。  居間に戻ると、先生が葵を抱っこしてあやしていた。葵は相変わらず火がついたように泣きじゃくっている。 「余程お腹が空いてるんだな」 「そうみたいだね」  先生が葵を膝の上にのせて、ミルクを飲ませ始める。ぱたりと泣き止んだ葵は、こっくんこっくんと、勢いよくミルクを飲んでいた。 「葵、まるまるしてきたな」 「うん。おにぎりみたいな顔になってきた」  葵を見つめながら、二人で微笑んだ。先生も気を使っているのだろう、ごく自然に接してくれたので、僕は安堵する。変にぎこちない態度を取られないことで、僕自身も次第に落ち着きを取り戻していった。
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