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 その日は金曜日で、葵は六時過ぎに目を覚ました。睡眠に関しては、葵はとてもいい子で、夜中はほとんど目を覚まさず、しっかり五、六時間眠ってくれる。いつものようにおむつ替え、ミルクを飲ませてから、朝食の準備に取り掛かった。  先生は自宅から目覚まし時計を持参したので、大抵七時過ぎには起きてくる。 「寝ぼけてアラームを止めてしまうから」という理由で、なんと三つも持ってきていた。それでも起きるまでに三十分以上はかかるらしく、七時半になっても起きてこない時だけ、ドアをドカドカと叩くことにしている。  先生を送り出してからしばらくして、身体にぞくりとした悪寒が走った。ふくらはぎが痛い。嫌な予感がした。例のヤツがやって来たのではないか。  悪い予感は的中した。徐々に脚の関節が痛み始め、身体の震えが止まらない。  子供の頃から、心身の疲れが限界まで達すると熱が出る。大抵三十九度以上の高熱で、特に脚の関節がぎしぎしと痛むのだ。翌日には何事もなかったように熱は引くのだけれど、一晩は身体が動かない。案の定昼食を食べる頃には、身体じゅうが軋み始めた。  動けるうちに、葵の風呂を済ませておこう。ベビーバスにお湯を溜めている間に服やおむつ、タオルを用意して、裸にした葵をベビーバスにそっと浮かべると、葵はほお、と気持ちよさそうに口をすぼめた。ガーゼを握った手がフニャフニャとお湯のなかで揺れていた。  バスタオルにくるんで拭いた後、おむつと肌着を着せて、湯冷ましを飲ませる。その間もずっと、葵を抱える腕がズキズキと痛む。熱が上がってきたのだろう。何とか葵を寝かしつけて検温すると、三十八度を超えていた。  先生にメッセージを送る。『体調が悪くて食事の用意ができないから、夕食は食べて帰ってください。あと帰りにポカリを買ってきてください。よろしくお願いします。』そして、ソファに倒れ込むように横になった。  葵の泣き声で目を覚ました。ヒーヒーと甲高い声。起きなければ、と思うのに、身体に力が入らない。吐く息が熱い。ふたたび熱を測ると九度八分まで上がっていた。 「……葵」 「そのまま横になっていて。葵は僕が見るから」  声に驚いて頭だけ起こすと、こめかみに割れるような痛みが走って、思わず顔をしかめた。ちょうど帰宅した先生が、居間のドアの前に立っている。壁時計を見ると、まだ十七時前だった。
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