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「……先生、仕事は?」 「今日は特に忙しくないから、早退してきた。具合が悪いって、大丈夫?」  そう言って駆け寄ってくると、先生が僕の額に手を伸ばして、触れてくる。一瞬で身体がこわばった。 「……すごく熱い」 「一晩休めば治るよ。……先生、ごめんね迷惑掛けて」 「そんなこと気にしなくていいから、ゆっくり休んで」  先生は葵をそっと抱き上げる。最初は危なっかしくて見ていられなかった動作も、今ではすっかり板に付いてきた。 「よしよし、ミルク作ってくるから、待ってろよ」  キッチンで手を洗った先生が、慣れた手つきでミルクを作る。葵を抱っこして、ミルクを飲ませる。葵を見つめる先生の眼差しは、とても優しい。蕩けそうなくらいあまくて、僕はその顔を見つめているだけでしあわせに満たされる。 「ポカリ買ってきた。あとゼリーと、レトルトのおかゆも」  先生から手渡されたポカリをごくごくと飲んだ。相変わらず身体が動かない。先生の顔が、至近距離まで迫ってくる。お願いだから、そんなに近づかないで欲しい。 「肩、持って」  躊躇している僕の両腕を掴んで首に回すと、先生は両腋を支えて僕の身体を起こした。 「今夜はベッドで休んで。葵は、僕がちゃんと見ておくから、大丈夫」  自分で行ける、と言おうと思ったが、やはり身体が動かない。仕方なく僕は先生に肩を抱かれ、凭れかかるようにしてベッドまで辿り着いた。 「枕元に飲み物置いておくから。何か欲しいときは電話して。しっかり休んで、早く良くなるんだよ」  僕はこくりと頷いた。先生は横たわった僕にタオルケットを掛け、カーテンを閉める。 「脚、触っていい?」  僕が答えないうちに、先生の手が右のふくらはぎに触れた。指先の冷たい感触が身体じゅうを駆け抜け、金縛りにあったみたいに固まってしまう。 「さっきからずっとさすってて、痛そうだから」  そう言って、絶妙な力加減で脚の筋に沿って丹念にマッサージしてくれる。 「痛くない?」 「……すごく気持ちいい」  そうして先生の手に身を委ねていると、本当に気持よくて、こわばっていた身体の力が緩んでくる。うっとりと夢のような心地良さに包まれながら、僕はいつしか眠りの世界へと誘われていった。
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