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 小さなベーカリーショップは、香ばしいパンの香りが店じゅうに漂っていた。奥がイートインスペースになっていて、カウンターに五席。それから小さなテーブルが二つ置いてある。  先生はクロワッサンとシナモンロールとコーヒー。僕もクロワッサンに、ハムとチーズと野菜のサンドイッチとクラムチャウダーを注文した。テーブル席が一つ空いていたので、そこに座る。  クロワッサンは一口食べるとボロボロと崩れてしまうくらい、パリッパリに焼かれていて、すごくおいしかった。 「後でチョコクロワッサンも食べよう。あ、二人のおみやげも買って帰ろう」 「諒くんの食べる時の顔は、本当にしあわせそうでいいね」  先生はそう言って、にこにこしながら僕を眺めていた。 「諒くんの家から帰ってからは、ひとりぼっちの食事が味気なくて、淋しかった。僕は諒くんといると、ますます頼りない人間になっていく気がする」 「いつでもうちに食べに来てよ。僕も先生が居てくれた方が楽しいし、姉だってきっと喜ぶよ」 と言ったら、先生はすこし神妙な顔をした。 「実咲さんには、僕からきちんと挨拶しないといけないな」  僕とのことを言っているのだろう。きっと「弟さんと付き合わせて下さい」なんて生真面目に頭を下げて、その時姉がどういう反応を示すのか、不安に思っているのだ。 「実咲ちゃんは、僕が先生のこと好きだって知ってて、僕のことを応援してくれてたんだ。だから絶対大丈夫だよ」 「……え?」  先生はポカンとした顔をして僕を見つめてくる。 「知ってるんだ。僕は、実咲ちゃんには隠し事しないし、できない。すぐバレるんだ」 「……そっか」 「僕がゲイってことも以前から知ってる。それでも、いつも僕のこと認めて、励ましてくれた。そのことは、すごく感謝してるんだ」  そう言ったら、先生が目をパチクリさせた。
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