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「何?」
「……いや、だって諒くんは、同じ学部の女の子と付き合ってたでしょう?」
「……え?」
今度は僕の方が目をパチクリしてしまった。
「え、どうして?」
「だって、……だから、ずっと見てたって言ったじゃないか!」
先生が怒ったような顔で僕を見つめた。
「君が毎日同じ女の子と学食で食べている姿を見かけて。僕はものすごいショックで、普段はほとんど飲まないのに、同僚と朝まで飲み明かしてしまったよ。そのまま普通に出勤して、あの時は本当に死ぬかと思った」
最初はふくれっつらだった先生が、その時のことを思い出したのか、苦笑いしている。
「後にも先にも、あんな風に飲んだことはないよ。同僚も振られた直後で、二人でベロンベロンになって、翌日大学のトイレで鉢合わせて、二人して真っ青な顔してて。あれはホント最低だったな」
「……そっか、なんていうか、ごめんなさい」
そんなに仲のいい同僚って誰だよ、と心の片隅で嫉妬しつつ、とりあえず謝っておいた。
先生が言う同じ学部の女の子とは、吉沢さんという、小柄で大きな瞳がクルクルした可愛い女の子で、去年の冬に告白された。
好きなひとがいるからと断ったけど、「友達でもいいいから仲良くなりたい」と懇願され、すこしの間一緒に昼ご飯を食べたり勉強したりしていた。でも、友達以上の関係を望んでいる吉沢さんを変に期待させることが心苦しくなって、自分の気持ちを正直に伝えたのだ。
「でも、付き合ってないよ。だって、僕はずっと先生のことが好きだった」
僕は先生を真っ直ぐに見つめて言った。
「僕は、先生だけだよ」
先生の耳が真っ赤に染まって、隠すようにそのまま俯いてしまう。
分かりやすく動揺している先生が、すごく可愛い。僕はサンドイッチを持って、先生の前に差し出した。
「はい、あーんして」
ますます赤くなったので、僕は笑ってしまった。
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