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「でしょう?」と姉は言って、いたずらっぽく笑った。僕も笑う。  そうだ。父や母と違って、これは一生の別れじゃない。思い立って飛行機に飛び乗れば、いつでも三人に会えるのだ。そして、僕のそばには、先生がいてくれる。  僕は先生を見つめた。 「先生、それでいい?」 「いいよ。諒くんが葵に会いたくなった時はいつでも」  そう言って、先生は葵のぽちゃぽちゃした頬を指で突く。 「この子には、敵わないなあ」 「先生のこともちゃんと好きだから安心して」  先生の肩にそっと頭を預けて、甘えてみる。そんな僕の髪を、今度は先生が優しく撫でてくれた。  月曜日の夕方、新さんはマレーシアへ出発した。本当は空港まで送っていくつもりだったけど、新さんがどうしても駅まででいいと言うので、最寄りの新幹線の停車駅まで送ることになった。  別れ際、またしても僕をぎゅっと抱きしめて、「兄貴に飽きたらいつでも俺のところにおいで」なんてとんでもない冗談を耳元で囁いて、颯爽と新幹線に乗り込んだ新さんがドア越しに手を振っている。その顔は、真夏の太陽みたいに明るく眩しかった。  家を出る直前、新さんは葵の初めての沐浴をした。  慣れない手つきがぎこちなくて、いかにも恐る恐るという感じだったけど、湯船に身体を浮かせて、ほおっと気持ちよさそうな葵の顔や身体をガーゼでそっと拭きながら、この上なく優しい瞳で葵を見つめていた。 「次に会うときは一緒にお風呂に入れるな。楽しみだなあ」  なんて言いながら。  新さんは、葵と暮らす日を心待ちにしている。それが心底伝わってきて、僕はようやく三人の新生活を心から祝福できる気がした。
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