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 ちょうど目を覚ました葵のおむつを替え、ミルクを作る。手を洗った先生に抱き方を教えて、抱っこしてもらった。 「赤ちゃんを抱くのって、初めてだ」  先生は、こちらが可笑しくなるくらいガチガチだった。 「いい匂い」  頭に鼻を寄せて、クンクンしている。その姿が、いかにも研究者っていう雰囲気の先生に全然似合っていなくて、面白い。 「ミルク、あげてみます?」 「うん」  あぐらの上に葵をのせて、僕が丁度良い角度に合わせると、葵はいつものようにぐびぐびとミルクを飲み始めた。 「可愛いなあ」  先生は心底いとおしげに目を細めて、葵を見つめていた。 「先生、お腹空いてませんか?」 「実は昼から何も食べてないから、腹ぺこなんだ」 「じゃあ、ミルクが終わったらご飯食べましょう」 「諒くん、」  いきなり名前を呼ばれたから、どきっとした。 「ここは大学じゃないから、普通に話して。ずっと敬語だと、疲れるでしょう」  そう言って、先生はにっこりと笑う。 「僕のことも、名前でいいから」 「……」  それは無理です。「秋彦さん」だなんて、恥ずかしくて絶対に呼べない。 「……敬語はやめるから、先生は先生でいいでしょ? 呼び方いちいち変えるの、面倒だし」 「諒くんの好きに」 「それじゃ、先生のままで。飲み終わったら、背中撫でてゲップさせるの。こんな風に」 と言って葵を抱き寄せると、汗とミルクのあまく濃い香りに包まれる。しばらく背中を撫でていると、「げー」と大きな音がした。 「豪快だな」 「いつもこんな感じ。先生、ちょっと抱っこしてて。疲れたらベッドで寝かせていいから」  僕はキッチンに向かった。鍋に昨日の残りのスープカレーがあるから、ささみのチーズカツとサラダを作ろうと決めた。カツの準備をして、揚げている間に野菜を切って、簡単な夕食の完成だ。  テーブルに皿を並べて、ベビーベッドの方をちらりと見ると、先生がベッドの側で膝建ちになり、葵を優しい目で見つめていた。葵はベッドの上で、大きな目をくりくりさせて、機嫌良さそうに手足をぱたぱたと動かしていた。
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