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僕の気配に気づいたのか、先生が目を薄く開いた。まずい、と思ったけれど、もう逃げられない。
「……ん、諒くん……」
まだ寝ぼけているらしい。もぞもぞと手が伸びてきて、僕の腕を掴むとぎゅっと握り締めてくる。
完全にパニックだ。それなのにもう片方の腕まで伸びてきて、さらには頭も近づいてきて、抱き枕のようにしがみつかれた。
「……おはよ、諒くん」
腕に頭を擦りつけられる。
「……おはよう。先生、朝だよ。起きて」
心臓が口から飛び出しそうな勢いでバクバク鳴っているけど、必死で冷静を装って声を絞り出した。
「……まだ、目、覚めない……」
先生が囁く。普段の姿からはまったく想像がつかない、ふにゃっとして甘えた表情と声だった。可愛すぎてこれはヤバい。僕は心のなかで身悶えた。
「もう七時過ぎたよ。早く起きて」
「うん……」
まだもにょもにょ言ってる先生の腕を引っ張って、上体を起こした。
どうやら朝が苦手らしい。さいわい大事なところはタオルケットに隠れていて、ほっと胸をなで下ろす。
なんて安堵したのも束の間、先生はそのままベッドから這い出して、立ち上がった。
「先生、服!」
僕は思わず叫んで、ベッドの下に転がっている衣服を先生に向かって投げた。
「後で……」
まだ目が半分閉じている。なんという寝起きの悪さだ。
「今すぐ着るの!」
立ち上がった先生をもう一度ベッドに座らせて、まだむにゃむにゃ言ってる先生に、なかば無理矢理服を着せた。
「ちゃんと目が覚めたら来て。葵を見てくる」
僕は逃げるようにその場を立ち去った。
当然、全部見えた。ばっちりしっかり目に焼き付いた。でも、これは完全にもらい事故だ。
煩悩渦巻く頭をぶんぶんと振りながら、僕は葵の元へと急いだ。
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