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 無言だ。とても気まずい。先生は俯いたまま、静かに味噌汁を啜っている。何て声を掛けたらいいのか分からなくてもじもじしていたら、先生が静かに口を開いた。 「あの、……さっきはごめん」  僕はぶんぶんと首を横に振った。 「僕、寝るときはいつも裸なんだ。諒くんのベッドだから最初はちゃんと服着ていたんだけど、どうしても寝付けなくて。ごめん、気持ち悪いよな。シーツとか、全部弁償するから、本当にごめんなさい」 「そんなのいいよ。そりゃ僕が女の子だったら大問題だろうけど。全然気にならないから」 「……でも」 「でもとか言ってないで、早く食べないと遅刻するよ」 「帰りに家から目覚まし時計を持ってくるよ。もう知っていると思うけど、朝はからきしダメなんだ」 「うん。さっきので十分理解した」  先生がまた真っ赤になって俯いた。 「昨夜はこうするのが一番いいと思ってここに来たけど、かえって君に迷惑掛けてしまったね」 「そんなことないよ。僕は、先生が来てくれて、そばにいてくれて、とっても心強かったよ」  僕は言った。これは嘘じゃない。 「今日も来てくれたら、すごく嬉しい。もし、先生が嫌じゃなければ」  縋るように見つめると、先生は安心したようにふっと微笑んだ。 「うん、来るよ。約束する」  僕も笑って、こくりと頷いた。  先生が出勤した後、僕は悶々とした気持ちでその後を過ごした。  堪らずベッドに潜り込んだ。ふんわりと優しい先生の匂い。タオルケットに顔を埋めて、僕は自分を慰めた。先生のなめらかな肌を、隠された部分を思い出して。  罪悪感はあるけれど、この邪な気持ちを抱えたまま先生と過ごすことの方が、ずっと危険だと分かっていたから。
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