七話目 「渋滞待ち」

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七話目 「渋滞待ち」

男はイラついていた。 仕事の関係で遠出をした後、せっかく17時には業務を終えて帰宅できるはずだったのに高速で渋滞に巻き込まれていたのだ。 もう1時間は同じ場所でエンジンを吹かしている。 ラジオによると渋滞の原因は、玉突き事故のようだ。しかも帰宅ラッシュ時の、である。大渋滞の発生は至極当然な時間帯と状況だった。 頭ではわかっているものの、どうしても苛つきが収まらない。 なんとか落ち着けようと、何本目かの煙草に火をつける。 ライターのオイルも残り少ない。煙草が切れたらどうなることやら。 ふぅーっとストレスと一緒に煙を吐きだす。 肌寒くて一度閉めた窓を再び開けて、外に煙草を持つ右手をぶら下げる。ふと、右を見ると隣車線の車両がちょうど男の車と平行に止っていた。 運転手の様子はというと、ハンドルに頭をつけ、うな垂れている。 ”何かこの後用事でもあったのだろう。キャンセルしなきゃいけない状況で絶望するのも仕方ない。” 男はそんなことを思いながら、人の不幸を糧に気持ちを落ち着かせていた。
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