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酔った勢い
「いやあ、まさか男の方から電話をもらうとは思ってもいませんでした」
葛生は少し困ったような顔で頭をがしがしと掻いた。目の前に置かれたコーヒーカップを見つめながら酔った勢いは怖いと福田は考えていた。
「ええ、僕もまさか電話するとは思いませんでした」
「えっ」
「あ、いいえ。何でもありません」
「そうだ紹介させてください。コウ、こっちへおいで」
葛生に手招きされて出てきたのは小学生になったばかりの大人しそうな男の子だった。
「初めまして、コウ君。僕は福田雄大と言います」
酔っていても染みついた習慣、居住まいを正すと子どもに向けて笑顔を作った。ゆっくりと自分の名前は聞き取りやすいように相手の目を見て話す。
「葛生浩輔です。初めまして」
コウと呼ばれたその少年は名前はきちんと名乗ったものの不思議そうな面持ちで目の前の男を眺めている。突然やってきた見知らぬ人に挨拶されて戸惑っているのだろう。
「浩輔君、きちんと挨拶が出来て偉いね」
浩輔はその言葉に歯を見せてにっこりと笑った。
「コウ、福田さんは今日からここに一緒に住むからね」
「えっ?」
「ええっ?!」
浩輔の声と福田の声がシンクロした。その様子を人懐こい笑顔で葛生が嬉しそうに見つめていた。
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