記憶の中の家族

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母の親友だという人がいるのは、王都だった。 私達の暮らしていた村からは、歩いて1ヶ月はかかる。 お金はない。 あるのは今着ている服だけ。 私は毎日安全そうな場所を見つけては、野宿を繰り返して、時折川で体や髪を洗った。 髪が伸びてこれば短刀で切った。 人攫いらしき人間を見つけると、見つからないように急いで逃げた。 食事は草や民家に干してある干物を盗んで食べた。 何日も何も食べられない日も多かった。 誰のことも信じられなくて、誰にも助けを求めなかった。 時折、同情して家に泊めてくれようとする夫婦もいたが、私は断った。 誰も信じず、誰にも頼らず、ひたすらに王都を目指した。 そして、両親を失って2ヶ月近く経った頃、ようやく王都に入った。 王都は、村とは違って各筋毎に住所が書いてあって、私はそれを頼りに母の親友の家を探した。 ようやく見つけたそこは、大きな邸宅に小さな食堂がくっついたところだった。 近所の人に聞いてみると、邸宅の主人が道楽で、庶民向けの食堂を経営しているのだという。 教えてくれた婦人は、メアリーを見下すように見て、それだけ教えてくれると足早に去っていった。 メアリーは迷った。 邸宅を訪ねるべきか、食堂を訪ねるべきか。 いくら母からの手紙があるとはいえ、邸宅を突然訪ねても、その手紙を親友だという人に渡してもらえる可能性は低い。 一方の食堂は、庶民向けと言っていたし、小汚い格好のメアリーでも、手紙を渡してほしいといえば渡してもらえるかもしれない。 メアリーは覚悟を決めて、食堂の戸を開けた。 「悪いね。まだ開店前なんだ」 奥から人の良さそうな男性が出てきて言った。 「すいません。あの、ジュリアーノさんに手紙を渡すように頼まれて……」 「ジュリアーノに?」 きっとこの男性は店主なのだろう。 だとすると、ジュリアーノさんの夫か、兄弟か。 「ちょっと見せてご覧?」 「すいません。ご本人に直接渡すように言われてるんです」 「ふむ……わかった。ちょっと待ってな」
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