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その晩。
店を閉めたあと、ジュリアーノがメアリーを訪ねてきた。
「メアリー。お母さんが若い頃、どんな人だったか知りたくない?
私は、団長と暮らしていた頃の姫様の話を聞きたいわ」
「聞かせて。お母さんは、昔から頑固だったの?昔から気が強かった?どうやって騎士団長と恋に落ちたの?」
「あらあら。一度に随分たくさん質問が出たわね。
そうね。昔から気が強くて頑固で、身体が弱くてベッドにいることが多かったけど、ベッドの上で、私だってパーティーくらい出られるわ!とかよく怒ってたわね。一度言い出したら聞かないから、寝てなきゃいけないのに無理矢理ドレスに着替えてパーティーに出席したことも何度もあったわ。
団長とはね、姫様がオペラを見に行くのに警護として付いたことがきっかけで知り合ったのよ。姫様の一目惚れでね。
団長も満更でもなかったくせに、なかなか姫様の気持ちに向き合おうとしなくて、強引に二人きりにしたりしたものよ。でも、姫様が団長と結婚したいと国王に申し出た時に、とても反対されてね。国王は姫様が団長を諦めるように、と一回りも年上の貴族のご子息と結婚させようとしたのよ。
姫様は泣いて嫌がって……団長が、自分が守るから、と駆け落ちすることを決めたの。
私にできることは、城内の隠し通路の地図を渡すことと、アリバイ作りくらいだったわ。
お城での生活しか知らない姫様が、ちゃんと庶民として暮らしていけるのか心配だったけれど、姫様はちゃんと出来てた?」
メアリーは生前の母の姿を思い出した。
「庶民、と言うには少し上から目線だったかもしれない。でも、自分で買い物をして、料理を作って、洗濯もしてた。
お父さんとは、いつまでも新婚みたいに仲が良くて、私の目の前でも平気でイチャイチャしてたなあ」
ジュリアーノはその言葉にクスクス笑った。
「すごく想像できるわ。でも、ナイフとフォークより重いものを持ったこともない姫様が、自分で食事を作ったり、洗濯をしていたなんて……立派になられたのですね」
ジュリアーノはエプロンの端で少し目元を拭った。
「今夜はこれくらいにしておきましょうか。何かいるものがあれば、遠慮しないで言うのよ?」
「わかったわ、母さん」
ジュリアーノはにっこり笑って部屋を出ていった。
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