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いえ、と言って、のどかは、
「寮の方も見ていいですか?」
と飯塚に訊いた。
どうぞ、と笑顔で案内される。
そろそろ本気で、呪いを解かなければ、と思ってたんだけど。
呪いが解けてしまったら、もしかして、泰親さんは居なくなってしまうのでは……。
「うーん。
だったら、呪われたままでいいか」
とのどかは呟く。
ええっ? という顔で飯塚が振り向いた。
チラとスマホの入った鞄を見る。
社長に相談したいな、と思ったのだが。
なんだか忙しそうだったから、やめておこうと思う。
寮の方も見学したあと、のどかの家と八神の家の間にある草原に座り、膝を抱えて、猫の泰親とともに、工事を眺めていた。
時折、泰親が居ない方の隣を見てみる。
白い小さな花を咲かせたオランダミミナグサが生えていた。
あの日、貴弘の指が自分の耳をぷにぷにしていた感触が蘇る――。
工事の音を聞きながら、のどかは誰も居ないその雑草の上を眺めていた。
……社長。
早く帰ってこないかなー……。
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