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「貴方こそ、なにも言わなかったじゃないですか」
と大家さんの姿が消えたので、遠慮なく睨んで言うと、
「いや、俺はこの結婚を反故にするつもりはないからだ」
と貴弘は言う。
「俺はこのままお前と結婚していたい――」
夕暮れの光に斜め後ろから照らし出された貴弘の顔は、彫りの深さが際立ち、整った顔が更に整って見えた。
そんな貴弘にまっすぐ見つめられ、不覚にも、どきりとしてしまったが、貴弘の言葉は更に続いた。
「独身だと、いろいろ周りがうるさくてめんどくさいから、とりあえず、誰かと結婚しときたいんだ。
その点、お前なら、居ても害はなさそうだし。
見た目もそう悪くないから、妻です、と紹介するのにも悪くない。
だから、このまま結婚しておいてくれるとありがたいんだが」
「あのー。
そこで、はあ、そうですか、と頷く女が居たら、見てみたいんですが……」
と言ってはみたのだが、貴弘は、
「腹が減ったな。
弁当ばかりだったし。
何処か食べに行くか」
とマイペースに言ってくる。
そして、
「あのっ」
と頑張って反論しようとしたのどかの言葉にかぶせるように貴弘が言う。
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