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区役所で令和のパネルを手に写真を撮ったあと、焼き鳥屋で焼き鳥と酒をご馳走になったのどかは、今、友だちと冷蔵庫を抱え、夜道を歩いていた。
「ほんとに五千円でいいの? この冷蔵庫」
まだ新しいじゃん、と風子は言う。
アパートから引っ越すことになったので、いらなくなった家具などを安く友だちに分けているのだ。
冷蔵庫もタダであげると言ったのだが、
「いやそれ、お礼がめんどくさいから、お金とって」
と言われて、五千円になった。
女二人で抱えられないこともない中型の冷蔵庫だ。
「ねえ、あんた、ほんとに会社やめんの?
社長に謝りなよ~」
と風子は言う。
同期で入社して、一緒に楽しく酒を呑み、職場の愚痴を言い合い、旅行に行ってはダラダラした。
そんな仲間のひとりが消えるのが寂しいのだろう。
他の同期がやめたとき、自分もそう思ったからだ。
「綾太に謝るなんて絶対嫌だし。
そもそも、なにを謝るの?
私、なんにもしてないのに、いきなり、
『もうお前の顔も見たくない。
クビだっ』
って言われたのよ」
「なにその、私怨しかなさそうな解雇通告……」
幼なじみって厄介ね、と言われる。
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