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「……前の住人、夜逃げしたんじゃないの?」
「さあー?
あっ、そういえば、家具もだけど、猫もついてるみたいなんだよね、その家」
「……なんだって?」
と風子が訊き返してくる。
「家具と猫がついてるみたいなの。
まあ、猫は家につくって言うもんね」
「微妙に意味が違う気がするけど……」
そう風子が言ったとき、行き違えないくらいの狭い道なのに車が入ってきて、二人と冷蔵庫はカッとライトに照らされた。
道向こうを楽しげに話しながらウォーキングしていた老夫婦が、路上に置かれた冷蔵庫とのどかたちに気づき、二度見する。
「やばい、逃げようっ」
と風子が慌てて冷蔵庫を抱えようとした。
「待ってっ。
急いで逃げたら、ますます挙動不審な人になるよっ」
「夜道を冷蔵庫抱えて歩いてたら、どのみち不審者よっ」
「じゃあ、昼間にすればよかったんじゃんっ」
「それはそれで、すごい注目浴びるでしょうよっ」
ほら、持ってっ、と急かされ、二人は冷蔵庫を抱えて夜道を急いだ。
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