6話・狼がシジミにかわる朝

13/18
前へ
/529ページ
次へ
「困ります、誤解を招くようなこと」 「誤解って?」 「だから、その……私たちが特別な関係みたいな……」 真っ直ぐな目で見つめられると、言葉に詰まってしまう。 「来て。コーヒーでも飲もう」 「へっ?」 脈絡もなくそう言った彼は、先に立って歩き出すと、フロアの奥にある簡易休憩所で足を止める。 「座って。なに飲む?」 「えっと、じゃあ……ミルクティーで」 有無を言わさぬ口調に気圧されて答えると、自販機で買ったミルクティーを手渡される。 相田さんは自分用に買った缶コーヒーのプルタブを引きながら、私の隣に腰を下ろして、一気に中身を飲み干した。 仕事終わりの生ビールを飲んだみたいに、大袈裟に『ぷはあ、美味い!』なんて言うから、少し笑ってしまう。 「良かった、やっと笑った」 包み込むように見つめられて、今日は一度も笑っていなかったことに気がついた。
/529ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6538人が本棚に入れています
本棚に追加