6話・狼がシジミにかわる朝

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この硬質な声は―― 「桜田課長。おはようございます」 涼平さんが、立ち上がって頭を下げる。 「おはようございます。自販機をお借りしていいですか?」 「もちろんです。巴ちゃん、行こうか」 「ああ、その必要はありません。僕はすぐに退散しますから」 課長は、自販機にコインを入れて『今日も暑いですね』と、シャツの袖を捲りあげた。 その腕に露出した包帯。 「どうしたんですか!?」 驚きの声をあげた涼平さんに『ああ、これ』と、ため息で返した課長が、チラリと私を見る。 「助けた野良猫に噛みつかれましてね」 昨夜の悪夢が、脳裏によみがえった。 そうだ。 おでこにキスをされたあと、組み敷かれそうになって……逃げないからと油断させて、噛みついたのがあの場所だった。
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