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「そうですねえ。全体的に熱量が乏しいところ……ですかね。淡々と流れる冷えた文章なのに、優しい描写を散りばめることで、必死にそれを隠そうとしている」
あ、ここ。
ページをめくる手を止め、開いた本を差し出した。
「この章の冒頭『僕は人の気持ちが分からない。分かろうとも思わない』……これなんてまさに作者の人間性だと思うんです」
コホン――と、乾いた咳ばらいをした課長が本を私の方へ押し返す。
「なかなかの観察眼ですね。しかし今の説明ですと、この作家を好きだという理由にはなりません」
「うーん、好きというよりは興味でしょうか」
「どんな」
「なぜ小説家になろうと思ったのか。他人に興味がないくせに人間を描く仕事を選ぶなんて、ドMなのかなあ……とか」
驚いたことに桜田課長が、クククと笑いはじめた。
おお、この人でも声をあげて笑うんだ。
なんて珍しい光景、動画でも撮ろうかしらと、スマホに手を伸ばしたときだった。
不意に笑いをおさめた彼が、人差し指でメガネのフレームを押し上げた。
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