7話・営業トップは伊達じゃない

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ゆっくりと彼の顔が近づいて。 私は無意識に瞼を下ろしていた。 そうして、唇が重ねられようとしたその瞬間。 大きく体が震えた。 『いいか、男を信用するな』 『母さんみたいな女にはなるな』 頭の芯を殴られたような感覚と一緒に、父さんの声が脳内を揺らす。 「いやっ!」 気付いたら、涼平さんを突き飛ばしていた。 「あ……ごめ……ごめんな……さ」 傷つけた―― 彼の目を見てハッキリと悟った。 やっぱり駄目だ。 分かっていたのに……だからもう会わないって決めたのに。 震える指先でシートベルトを外した。 「送って下さってありがとうございます。ここからは、ひとりで帰ります」 「待って、巴ちゃん!」 車を飛び降りて全力で走った。 走りながら何故だか、煙草をくわえた桜田課長の横顔を思い出した。 課長の瞳の奥に住み着いた孤独が、私を意味深に見つめている。 そんな光景が浮かんで、そして朝の光に溶けた。 涼平さんは……追ってはこなかった。
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