8話・キスとスキ

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「ではキリもいいので食事にしましょう。素晴らしい資料を作って頂いたので、ご馳走しますよよ。何がいいですか?」 「課長の食べたいもので……」 「そうなると、サバ味噌デラックスになりますが」 「はあ、それで結構です。では、買って来ますね」 背中を向けかけるとグッと手を引かれた。 声をあげる間もなく、課長の膝の上に横向きに。 いわゆる、お姫さまだっこスタイルに乗せられてしまう。 「な、なんですかっ!」 「それは僕の台詞です。なんですか、辛気臭い顔でため息ばかり……相田君となにかあったんでしょう」 「……別に」 唇を結んで顔を背けると、 「へえ、そういう態度に出ますか」 課長の苛立った声が、耳元で息と一緒に吐き出された。 「彼に、惚れましたか?」 惚れた腫れたで思い悩めるなら、どんなに良かっただろう。 「言いましたよね、男性不信で誰とも付き合う気はないって」 土足で心に踏み入ってくる課長が、憎たらしかった。 メガネの奥の冷めた目は、もっと憎たらしかった。
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