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「ではキリもいいので食事にしましょう。素晴らしい資料を作って頂いたので、ご馳走しますよよ。何がいいですか?」
「課長の食べたいもので……」
「そうなると、サバ味噌デラックスになりますが」
「はあ、それで結構です。では、買って来ますね」
背中を向けかけるとグッと手を引かれた。
声をあげる間もなく、課長の膝の上に横向きに。
いわゆる、お姫さまだっこスタイルに乗せられてしまう。
「な、なんですかっ!」
「それは僕の台詞です。なんですか、辛気臭い顔でため息ばかり……相田君となにかあったんでしょう」
「……別に」
唇を結んで顔を背けると、
「へえ、そういう態度に出ますか」
課長の苛立った声が、耳元で息と一緒に吐き出された。
「彼に、惚れましたか?」
惚れた腫れたで思い悩めるなら、どんなに良かっただろう。
「言いましたよね、男性不信で誰とも付き合う気はないって」
土足で心に踏み入ってくる課長が、憎たらしかった。
メガネの奥の冷めた目は、もっと憎たらしかった。
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