6443人が本棚に入れています
本棚に追加
/529ページ
「颯介……お前はいったい、何が不満なんだ。社長室長が嫌なら、常務にでも専務にでも押してやると言っているだろう」
「不満など何も」
「では、どうしてそう意地を張る。市川家の人間として自覚はないのか」
苛立ちを露わにする社長に対して、桜田課長は淡々と答える。
「市川? 僕の戸籍の筆頭者は、母である桜田澄子です。つまり桜田家の人間ですよね」
「屁理屈を言うな。誰の金で大きくなったと思っているんだ!」
強い口調と一緒に、社長の手がテーブルに打ち下ろされた。
カタ、と揺れた湯呑みを見つめながら、課長は無感情に言う。
「そうですね。母のこともありますし……市川の〝道具〟としての役割は全うしますよ」
意に沿わない返事を繰り返す課長に困り果て、眉間を押さえていた社長が、ふと何かを思いついたように私に目を向けた。
「ところで、江本さん。この写真は?」
中傷ビラを取り出し、キャバクラで接客中の写真を指さす。
最初のコメントを投稿しよう!