6話・狼がシジミにかわる朝

2/18
6439人が本棚に入れています
本棚に追加
/529ページ
アメリカの心理学者が、学術誌に発表した研究によると。 人間は、通常なら保護したりそっと抱きしめるべき対象であっても、それがたまらなく可愛いと感じると、ギュッと潰したくなることがあるそうだ。 この反応は、最初に襲ってきた強烈な感情をかき混ぜ、心の均衡を保つためにおこるという。 おそらくは、この『かき混ぜ』作用が、僕の自制心を崩壊させたのだろう。 嗜虐にも似た感情に突き動かされて。 気がついたら、限界を超えるほどに彼女を責め立てていた。 ……にしても。 女という生き物は、こうも健気なものだったろうか。 僕の中で起こった、情動性自律反応。 世間一般には『グッとくる』とか『キュンとする』と言われる、胸の締め付け。 まあ、そう悪くない感覚ではあった。 人が、ペットを飼いたがる心理が少し分かった気もする。 「ん……か……ちょう」 腕の中で小さく身じろいだ彼女が、僕を呼んだ。
/529ページ

最初のコメントを投稿しよう!