6話・狼がシジミにかわる朝

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* * * こうして、課長と深夜のドライブをしているなんて、数日前には想像すら出来なかった。 濃紺の甚平と、水色のビートルが持つ欧風クラシカルな雰囲気。 その和洋折衷が奇妙に調和している。 カーラジオから聞こえるのは、映画のサウンドトラック。 DJの発音が流暢すぎて、曲名は聞き取れなかった。 「煙草、吸ってもいいですか?」 「え、ああ……どうぞ」 課長は少しだけ窓を開け、ドアポケットから煙草を取り出す。 慣れた手つきで火をつける様子は、見るからに作家然としていて、思わず見惚れてしまった。 「なんですか……言いたいことがあるなら、聞きますよ」 赤信号で止まると、チラリと視線を送られる。 「別に……なにも」 「そうですか」 煙草をもみ消した彼が窓を閉めると、車内に気まずい静けさが漂った。 「……課長は、嘘つきです」 沈黙を埋めるようにつぶやくと、「どうしてですか」と、穏やかな声が帰ってくる。 「天地がひっくり返ろうとも、私に欲情することはないって……そう言いました」
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