6話・狼がシジミにかわる朝

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ロリコンではないので、君のように貧相な体を見ても何も感じません―― そう言われたのは、つい昨日のことだ。 彼は一瞬だけ声を詰まらせたけど、二度の咳払いの後に言う。 「君だって、泣きながら僕の胸に縋りついてきたでしょう」 「……っ」 今度は私が声を詰まらせる番だ。 うっすらとした記憶だけど、拠り所を求めて彼の胸に身を寄せたのを覚えている。 「僕も男ですからね……快感に戸惑って『課長……怖い』なんて言われたら、多少は興奮します」 「それはっ、ケホッ!」 動揺に追い打ちをかけられて()せると、ペットボトルのお茶を渡された。 「それに、あれは欲情ではなく発情ですね」 「は?」 「好みの異性がいて、その色気に突き動かされるのが欲情。対して、発情は本能にすぎません。空腹で食事を取ったり、眠くなってベッドに入るのと同じ。……要は誰でもいいんです」
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