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誰でもいい――
彼に恋心を抱いているワケではない。
けれども人として、そんな物言いがあるだろうか。
あっけに取られ、それから猛烈な怒りがわいてきた。
ペットボトルを握りしめて、唇を噛む。
『最低です』と低い声が出た。
課長は何も答えなかった。
ドアポケットから煙草を取り出すと、今度は私に了承を得ることなく火を点ける。
抗議の声をあげようと口を開きかけ――
課長の目の奥に、ハッとするほどの孤独が潜んでいるのを見つけた。
この人は、何を背負っているのだろう。
それを知りたいとは思わなかったけど、これ以上、彼を責める気にはなれず、そっと目を反らした。
窓を開けたせいで、生ぬるい風が車内を通り過ぎ。
煙草の匂いが鼻孔をかすめた。
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