1話・シジミの皮を被った……

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1話・シジミの皮を被った……

* * * 「桜色の秘裂からとめどなく蜜が溢れる。 無骨な指が固く腫れあがった芯をかすめると、カナコの体は電流に貫かれたように跳ねた。 火照った顔を埋めようと波打つシーツを手繰り寄せた刹那。隠すな、と低い声に拘束される。 奪われたい、征服されたい。心も体も、何もかも忘れ――」 「はい、もう結構」 室内に響く冷めきった声。 淫猥にゆるんでいた空気が、ピリリと張り詰めた。 はあ、またか。 「今度はなにがお気に召さなかったのでしょう」 つとめて冷静に質問すると、時代遅れな黒縁メガネ、分厚いレンズの奥から極小の目に睨まれる。 「艶のない声、色気のない表情、エロティシズムの欠片もない抑揚、全てが気に入りませんね」 「お言葉ですが課長。うら若き乙女に官能小説の朗読を強要する。それだけで十分にエロティックだと思いますけど」 「うら……若き?」 「なにか」 「図々しいにもほどがある」 ブチン―― 堪忍袋の緒が切れるときって、本当に音がするんだ。
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