3話・さらば平穏な日々

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3話・さらば平穏な日々

* * * 最寄り駅から徒歩10分ほど。 ビルの谷間に沈み込むようにその家はあった。 周囲には近代的な建物が立ち並んでいる。 にも関わらず、目の前の日本家屋だけはひっそりと、まるで時代にとり残されたようにたたずんでいた。 古めかしい数寄屋門(すきやもん)に圧倒され、震える指で呼び出しボタンを押し込む。 『ピン、ポーン』というレトロな音に心が和んだのもつかの間。 インターフォンから聞こえた愛想のない声に、ブルリと震えた。 「――はい」 「あのっ、桜田さんの紹介で参りました、助手希望の江本巴です」 「どうぞお入りください」 「失礼します」 アプローチの先にある玄関扉を開けて、足を踏み入れる。 最初に目に飛び込んできたのは、広々とした土間に鎮座する、御影石の上がり(かまち)。 廊下の先から『上がってください』と声がした。 けれども慣れない日本家屋の様式。 靴はこの御影石の上に置くんだろうか、それとも下で脱ぐんだろうか、などと戸惑ってしまう。 グズグズと思案していると、痺れを切らしたのか男が姿を現した。 180センチをゆうに超えていそうな長身。 しつらえたように体になじんだ海老茶色の作務衣。 ゆっくりと近づいてきたその人は、私の前で立ち止まった。
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