4話・お友達から始めましょう
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4話・お友達から始めましょう

* * * 午前9時40分、始業前―― 私が柱の陰から盗み見ているのは、人事2課の最奥。 人気のない室内で、ひとりパソコンに向かっている桜田課長の横顔だ。 いつもと変わらず、もっさりしたスーツに時代遅れな髪形とメガネ。 けれども注意深く見れば、スッキリとした鼻梁や、引き締まった唇。 背中を丸めて小さくなってはいるけれど、手足の長さは隠しきれていない。 あれほどに分かりやすい美形だというのに。 〝シジミ〟のレッテルを張られただけで、誰も彼の美しさに気が付かないんだから、先入観とは恐ろしいものだと思う。 ふっと、課長の視線が画面から離れる。 電話がかかってきたのだろう。 スマホを耳にあてて、何かを話し始めた。 ガラス戸に隔離されているので、何を話しているのかは聞こえない。 会話が進むにつれて、課長の表情に苛立ちが浮かびた。 つい――と、彼の左手が動いて、マグカップを掴んだ瞬間。 私の心臓は、あからさまに高鳴る。 脳裏によみがえる、昨夜の出来事。 あの指が、ほんの少し手の上を滑っただけで、一瞬にして囚われてしまった。