5話・シジミが狼にかわる夜

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5話・シジミが狼にかわる夜

* * * 約束の20時きっかり。 滑り込みで到着した私を、課長はやけにスッキリとした顔で迎え入れてくれた。 昨夜は海老茶の作務衣だったが、今日は濃紺の甚兵衛。しっとりと宵闇を溶かしたようなその色は、色白の彼によく似合っている。 悔しいけど、駄々洩れる色気にクラクラした。 ギュと目を閉じて昼間のシジミを思い浮かべる。 ビッチリと額に貼りついた前髪…… 肩をすぼめてショボくれた後ろ姿…… ダサメガネ、ここにいるのは冴えないダサメガネなんだ。 そう、心の中で繰り返して目を開く。 「課長、今日からよろしくお願いします」 イケすかない男ではあるけれど、ここでは私の雇い主。 覚悟を決めて、誠心誠意、勤めるつもりだ。 「まずは、お互い仕事がしやすいように、打ち合わせをしましょう」 仕事部屋に通されると、座卓に琉球グラスと緑茶のペットボトルが用意されていた。 お茶を飲んで待っていると、課長が籐のカゴに入った荷物を持ってくる。 「これは、江本さんの仕事着です」 笑顔で取り出されたのは、白いワンピース。 襟元と裾にひかえめなレースがあしらわれただけの、シンプルなデザインだ。
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